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ロウディオ

エピローグのその前に 2

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日記は、二十五歳になって数日したほどからはじまっていた。
現状を現実として理解はしているものの、とうてい納得することが難しかった僕が日記を読まない、という手はなかった。
少し考えればわかる事だった。
僕は、いつものようにソフィアをからかって彼女のまあるい瞳が潤み、その涙が決壊するところを待っていた。彼女の涙は美しくて、その瞬間、彼女の全てが僕のものになったような気がして、妙な独占欲と優越感にさらされ、やめることができなくなっていた。その度にソフィアは悔しげな、物言いたげな顔をして、歯を食いしばる。そんなところも好きだった。諦めて泣いて、僕に謝って縋ればいい。そう思うのに、そうしないソフィアが憎たらしくて、同じくらい可愛らしかった。
あの日、なんてこともない。彼女が花弁を髪に編み込んで登城したから、そんな可愛い格好はソフィアには似合わないと言った。彼女は傷ついたように瞳を歪めて、僕をキッと見た。

「知らないんでしょ!私、毎日あなたへの恨み言をずぅっと日記に書いてるんだから!紙は覚えているのよ、私の気持ちを!ずっと忘れてなんてくれないんだから!」

ソフィアはそれだけに言うと、淑女らしくもなくドレスを抱えて逃げ出した。脱兎のごとく逃げるソフィアをぽかんと見ていた僕はその様子を侍女に報告され母上から叱られたが、その時の僕が考えていることは全く別だった。

日記。そうだ、日記だ。
僕も書けばいい。王族だからこそ、日記という、万が一他者の目に晒される危険のあるものを書き記すことは避けるべきだ。だけど僕も、書いてみたかった。記憶はいずれ薄れ、忘れてしまうこともあるだろう。だから、ソフィアの言ったように忘れることの無い紙に書き記したかったのだ。彼女の、ソフィアの存在を。

十二歳の時から今まで、続けていれば十三年間分の日記があるはずだ。見られても問題ないよう一週間かけて考えた暗号を使用しているから、余程のことがない限りは続けているはずだった。

そして、僕のその予想は見事に的中していたのだ。

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