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ソフィア
エピローグのその後に 3
しおりを挟むある時、ソフィアは侯爵令嬢の茶会に招待された。
金髪の巻き毛が美しい侯爵令嬢は未だに独身だ。歳は今年社交界デビューを果たした十六歳。彼女は豪奢な巻き毛を綺麗に編み上げて、残りの髪は垂らし、胸元に流していた。つり目がちな眼差しははっきりとソフィアを批判していた。
「ツルやカモメであるまいし、身分ある人間が一夫一妻にこだわるなんて馬鹿らしいと思いませんこと?」
痛烈な抗議だった。
婚姻を結んで7年。それなのに子を持たないソフィアに、その座を独占するなと令嬢は言った。
ソフィアは反論したかったが、しかし反論するすべを知らない。その通りだとしか言いようがない。
「しかも、ツルやカモメですら外へと情熱を求めることさえあるそうですわよ?だけどね、ソフィア様。動物と人間の違いは感情ですわ。動物は本能のまま愛欲を振り回しますが、人間はそうあってはなりませんの」
「………」
令嬢はソフィアを妃ではなく名前で呼ぶ。
その意図は無論理解していた。もはや、妃でなくなるであろうことが確定していたからだろう。そして、次期妃候補として令嬢が名指しされていることも、ソフィアは知っていた。
「良妻賢母の秘訣をご存知?それは賢さとおおらかさ、何事をも赦す器の大きさを指し示すのです」
「……スティラ様にはそれがあると?」
静かにソフィアは返した。
このような文句は言われすぎて、ソフィアは逆に落ち着いてきてしまっていた。令嬢、スティラはソフィアの落ち着いた様子に眉をしかめる。しかし長口上の口を止めることはせず、ふん、と鼻で笑いさえする。
「当然ですわ。私が良き役職に収められるようでしたら、その通りに。少なくとも、あるべき姿でいるつもりですの」
スティラはまだ紅茶に口をつけてすらいなかったが席を立った。非常識も甚だしいが、彼女とふたりの茶会で、その無作法ぶりを咎めるものはいない。スティラはそれほどまでにソフィアの失脚をそうなるものに違いないと決めてかかっていた。
「ソフィア様にはその冠、いささか重たいようですわね。国母としての姿を成すことができないのであれば、早いところお返ししたらどうかしら?」
「………」
「お子様が、できるとよろしいですわね」
スティラは手巾で口元を拭うと、にこりと笑った。嘲笑うような、含みのある声だった。
「私、具合が悪いようですの。申し訳ないですが、失礼しますわ」
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