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ソフィア

変わる日 5

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「呪いをかけた日にお会い出来ずに残念……。貴方の体に女を初めて刻むのはわたくしと決めておりましたのよ……?呪いが解けていないところを見ますと、最後まではしていないようですけれど……」

最後も何も、ソフィアとロウディオは手しか繋いでいない。ソフィアは眉を寄せた。イゾルデはまるで愛撫を施すかのような手つきでロウディオの頬をするりと撫でる。ねっとりとした視線は熱をはらみ、十三歳の少年に向けるものでは無い。
イゾルデは美しいものが好きだ。そして、少年を愛でる癖があった。
濃いエメラルドグリーンの瞳に睨みつけられながらもイゾルデははあ、と恍惚の息を吐く。

「初めてがこんな雑草まみれの場所なんて雰囲気に欠けるけれど……それも趣があっていいわ」

イゾルデがそっと唇を合わせようとする。イゾルデは女性にしては長身なので、ロウディオと目線が同じだ。
ふたりの距離がぜろになる瞬間、ソフィアは思わず声を上げていた。

「待っ………!!」

しかし、ソフィアの微かな喘ぎにも似た声は、それ以上の悲鳴にかき消されてしまった。

「あ、ああ、ああァあああ゛ぁ゛あ゛!!!」

じゅう、と燃える音。
制止のために突き出した手はそのままだ。ソフィアは呆然と目の前の光景を見た。
ロウディオはイゾルデの唇を避けて──何かをイゾルデの胸元に打ち込んでいる。
きらり。何かが光った。

(銀のシルバーナイフ……!)

ぽた、ぽた、と濃い赤が白い花を濡らしていく。それはまるで塗料のようにべったりと女の腹から零れ出していた。唖然とするソフィアに、ロウディオが「は、」と息を吐いた。
ぐぐ、とロウディオはイゾルデに打ち込んだものをゆっくりと抜いていく。埋まっていた刀身が顕になる。銀の刃は女の血で赤黒く汚れていた。

「思ったより力がいる……」

ロウディオは独り言のようにつぶやくと、銀のナイフを花園に放った。その瞬間、がくりとイゾルデの体が白い花ーー彼女が雑草と揶揄した花の上に倒れ込む。イゾルデは目を見開いたまま彼を見ていた。そして、必死に止血するかのように自身の腹を強く押し当てている。

「おま、おまえ、……おまええ!」

「流石に余裕がなくなった?」

ロウディオが余裕のある顔で笑みを浮かべる。ソフィアは彼のそんな顔を──少なくとも十三歳の彼がそんな挑発じみた笑みを浮かべるところを、初めて見た。

「どうして!」

「それは、何を指してる?僕がお前を刺したこと?それとも銀のナイフごときで致命傷を与えられたこと?……分かったんだよ。魔女イゾルデ。僕がお前を相手にしていた理由」

イゾルデは少年の顔を睨みつけるように見ている。イゾルデからロウディオの顔は影になっていて上手く見えないが、彼の雰囲気が変わったことに気がついた。

ロウディオは顔を上げた。そこには所在なさげに佇むソフィアがロウディオを見ていた。混乱している彼女に、ロウディオは彼女のそばに歩みよった。

「魔女は灰になるよ。大丈夫。僕はそのためにずっと・・・、調べていたようだから」

「ロ……ウディオ、殿……下?」

ソフィアは思わず、十三歳の少年を見て、その言葉の端々に二十五歳の彼を感じた。混乱した彼女がロウディオを観ると、天使のような顔立ちをした少年は優しく笑った。
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