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ソフィア
変わる日
しおりを挟むもう陽は斜めに傾いてきている。
約束の刻限まで、あと少し。陽が傾いてどこかしんみりとした空気の中、ロウディオがソフィアの手を取って花園を歩き出す。
そこは幼い頃ロウディオのために作られたかすみ草の花畑だった。幼い頃──成長しても変わらず彼は花に興味がなく、だからこそ幼ロウディオには遊び場としても使用出来るかすみ草の花畑を提供したのだろう。
ロウディオに手を引かれ花園へと入り込んだソフィアは久しぶりの光景に目を丸くする。
「ロロ……これは」
問いかけるとロウディオは少し恥ずかしそうにしながらも神妙に頷いた。
「……うん。あのさ、ソフィアにしたいことがあるんだ。僕が戻らなければならない……それは理解している。だから、今、お前にやりたい」
「………?」
困惑するソフィアをかすみ草の花畑に座らせると、ロウディオは彼女の手をそっと取った。その繊細な触れ方にソフィアまで妙に落ち着かない。そわそわしていると、ロウディオが真剣な目で彼女を見た。
「いつも、僕はソフィアには素直になれない」
「……ロロ」
これは、十三歳のロウディオから、十三歳のソフィアへの言葉だ。理解したソフィアはほんのわずかに寂しげな顔を覗かせながらも彼の言葉を待った。
ロウディオはじっとソフィアを見つめる。その表情は、二十五歳のソフィアに十三歳の彼女の面影を探す──というより、今の彼女を必死にわかろうとしている顔のように見えた。彼はソフィアの手を持ったまま、そっとその甲に口付けた。ソフィアが困惑したように彼を見た。
「二十五歳の僕とはもう、婚姻式は済ませたんだろ?でも、僕はまだなんだ。だから」
ふたりだけの婚姻を、今ここで誓わせて欲しい。
ロウディオのどこまでも真っ直ぐな言葉はソフィアに言葉を失わせた。だけど彼女は自分の手よりも温度の高い彼の手が僅かに震えているのに気がついて……頷いた。
ロウディオは僅かに安堵した様子を見せる。
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