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ソフィア

思い出を辿る日 2

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ついに満月の前日となった。
今宵中に何とかしなければロウディオはどうなるか分からないし、呪いもどう変質していくか分からない。呪いをかけたという魔女の出方も気になる。時は一刻を争う。

ロウディオの希望でソフィアは庭園へと連れ出された。動物好きなロウディオの希望によって、変わらず庭園には色んな生き物が顔を見せる。
手入れされた花壇は流石王宮庭師の手によるもので、冬の今でも美しさがある。ソフィアは淑女教育で教えられた部分の知識しかないが、それでも可愛らしくポップに誂られた庭園は美しいと思うし、華やかだと思った。
つる植物のアーチを抜けると、一匹の猫がゆっくりとふたりの前を横断する。ひとを全く警戒していない素振りの猫は、ロウディオを見るとぴくりと足を止めた。
じっとロウディオを見つめるその猫は、ロウディオを警戒しているようだ。

「誰だろう」

ロウディオは庭園で飼う動物一頭、もしくは一匹ずつに名前をつけている。見知らぬ猫に疑問を抱いたのだろう。猫は真っ白で目が青い。警戒しているためやや体が引き気味だ。
ロウディオの言葉に、ソフィアはふと思い出して言った。

「ブランだったかと」

「ブラン?」

ロウディオはブランをじっと見て、そして「もしかして」とどこか期待した声で続けた。
ロウディオは猫と目線を合わせるために屈み、問いかける。

「お前、ホワイトの子供?」

その言葉に、ソフィアはぱっと思い出す。
以前、彼がそんなことを言っていたのを思い出したのだ。

「そう言えばそのようなこと……殿下は仰っていました」

無意識に、ソフィアは殿下、と二十五歳のロウディオをその名で呼び示した。ロウディオはパッと顔を輝かせる。それは眩しいくらいに純粋な笑顔だった。金色の髪には光の輪が反射し、長いまつ毛に縁取られた緑の瞳はきらきらと白猫──ブランを見ている。
ロウディオは服が汚れるのも構わずに膝を着くと、ブランに話しかけた。

「そっか。ホワイトの子供がお前なのか。やっぱり可愛いね。………僕には懐かないかな?」

ロウディオはブランの方を見ていたが、ブランは変わらず警戒していてロウディオの方には寄ってこない。ロウディオは少し残念そうな顔をしていた。

「……ねえ。ブランの名前付けたの、僕でしょ」

ロウディオがソフィアに問いかける。
ソフィアは驚いた。その通りだったからだ。
──とはいえ、ソフィアが名付けた動物は数少ない。
ロウディオと距離が空いたあたりから、彼女が命名することは無くなったからだ。
いつからソフィアとの関係が希薄になったのか十三歳のロウディオはわからないはずだが、ブランと名付けたのは自分だとわかったらしい。

「名付けが安直すぎるんだ。前にソフィアに言われた」

「………」

彼にそんなことを言ったことがあっただろうか。記憶を辿ろうとしたが、幼すぎるためか、その記憶は見つからなかった。
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