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ソフィア

真実を伝える日 5

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すぐに答えはいらない、そう言われて、ソフィアは部屋を後にした。今すぐ答えを決めろと言われたらソフィアが選ぶのはおそらく前者──"真実を言うこと"だろう。だけどそれはタイムリミットがないからこそ生まれた答えであり、彼女自身が決めて選んだものでは無い。それでは意味がなかった。彼女に選んでもらって、彼女がロウディオに聞かせてもいいと思って欲しかった。

ソフィアはその足で何となしに図書室へと向かった。ふらふら歩いていたら、行き着いたのがそこだったのだ。
彼女はそのまま図書室に入る。そして何となしに目に付いた本棚に向かった。そこには童話が置かれていた。ふと目に入った背表紙には"姫と王子"と書かれている。この本は、昔ソフィアがよく読んでいたものだった。
ソフィアはその本を手に取ることはせず、だけどじっとそれを眺めた。
いつだったか。ロウディオはこの本を愛読するソフィアを馬鹿にしたことがあった。

『お前、姫様ってタイプじゃないだろ。どっちかっていうとじゃじゃ馬』

『じゃ、じゃじゃ馬じゃないもん……!』

『この前はしゃいで湖に落ちたのは誰だよ』

『あれはロロが……』

この辺りはあまり覚えていないが、確か水遊びをいやがるソフィアを無理やり連れ出したのだ。ソフィアは苔の滑りに足を滑らせて転び、全身ずぶ濡れとなった。幼いソフィアはよく泣いた。
度々涙を零すソフィアに、ロウディオはよく辟易していたのをソフィアは覚えている。
ソフィアが彼を"ロロ"と彼女が考えた愛称で呼ぶと、ロウディオは顔を顰めた。

『その、ロロっていうのやめろよ。犬の名前みたいじゃん』

『どうして?だってロロは……』

『何?』

『ロロはとっても綺麗だもの……。ロウディオなんて、カクカクした名前、似合わないわ』

『………王になるにはふさわしい名前だろ』

『ロロには、似合わない……わ……よ』

幼いソフィアは気がさほど強くなく、語尾はかすれて消えていく。ロウディオは長いまつ毛を伏せて物言いたげにソフィアを見ていたが、しかしため息ひとつ吐いてそれらを飲み込んだ。ロウディオは渋々ながらもソフィアが彼をロロと呼ぶことを許していた。

(いつから……なんて、私の方が聞きたい)

ロウディオはソフィアが変わったと言ったが、ソフィアからしてみたら変わってしまったのはロウディオだ。ロウディオが変わってしまったから、ソフィアも変わらざるを得なかった。昔のままでいたら、きっとソフィアは。

「私が……」

──きっと、僕達はどこかで間違えたんだ。僕かもしれない。ソフィアかもしれない。

ロウディオの言葉がふと思い出される。あの時は反射的に言い返してしまったが、ロウディオの言葉には一理あるのかも、しれない。ソフィアは薄くそう思っていた。

(もし、私が。あの時………なにか、言えてたら)

そうしたら、こんなことにはならなかっただろうか?
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