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ソフィア

真実を伝える日 2

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急いで支度を整えたものの、5分などあっという間にすぎてしまう。まだ身支度途中であったものの、ロウディオは痺れを切らして部屋に入ってきた。扉の外で控える近衛騎士が止めようとしたようだが、幼い王子を止めることはできなかったようだ。

「もう支度終わってるじゃん」

「……ロロ。私はあなたの教育係になった覚えは無いのだけれど」

暗に女性の支度中に入ってくるなど有り得ない、と批判すればロウディオは肩を竦めた。だけど反省する気はないようで、ソファに腰かけて、対応に迷う侍女に声をかけた。

「紅茶持ってきて。朝の紅茶はここで飲む。ソフィアもそれでいい?」

「……殿下がいきなり訪れたので、私にはそのような時間がありません」

「もう終わってるじゃん。何がダメなの」

「殿下。淑女の支度というものはお時間がかかるものなのです。マナー講師に習いませんでしたか」

「習ったけど……ソフィアの支度を見ながら待ってることも多かったし、何がいけないんだよ」

ソフィアはその言葉にふと懐かしい記憶を刺激された。確かに彼の言うとおり、幼い頃はロウディオがソフィアの生家であるアーリー家に向かいに来て、ソフィアの支度が整うまでの間、こうやって彼女を待っていることがあったのだ。幼い少年少女の間柄からか、それを咎める人間もいなかったように思う。ソフィアはそんなことを思い出すと共に、鋭い感傷に襲われた。彼がひとつひとつ、ソフィアとの記憶を話す度に、ソフィアは戻らない思い出に苦しくなる。

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