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ソフィア

傷つけた日

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次の日。
ソフィアの提案で二人は庭を歩くことにした。動物が好きなロウディオのために王宮の庭には様々な動物がいる。ひょこりとリスが顔を出し、人間が近づいたのを知るとタッタカ逃げていった。その体はまるまるとしていて、いい食事をしていることが伺える。
ソフィアは陰鬱とした思いに囚われた時はここを良く訪れていた。その場所を、まさかロウディオと歩くことになるとは。皮肉なモノだとソフィアは思う。

「ねえ、僕はどんな大人になった?」

ふと、前を歩くロウディオがなんでもないかのように話す。ソフィアはその問いかけに戸惑ってしまった。どんな大人に──。その質問に、"ろくでもない女たらしになりましたよ"と答えればいい。そうすれば散々彼と彼の恋人に傷つけられたソフィアは意趣返しが出来るだろう。しかし、幼いロウディオを前にして、そのようなことはソフィアにはいえなかった。
ソフィアは口ごもる。本当のことは言えないが、"立派になりましたよ"とも言えない。顔をくもらせるソフィアに、ロウディオは彼女を振り向いた。

「……やっぱり、未来の僕とは上手くいってないんだ」

「………」

上手く、も何も離縁寸前の身だ。
ソフィアは黙りこくるしかない。

「おかしいと思ったんだ。ソフィアは僕に敬語を使うようになって、名前を呼ばなくなって。他人行儀みたいに話して──昨日寝る前に考えた。どうしてそうなってしまったのか」

「………」

それは、ソフィアも知りたかった。
どうしてこうなってしまったのか。大人のソフィアには答えが出ない。

「きっと、僕達はどこかで間違えたんだ。僕かもしれない。ソフィアかもしれない。僕は未来のことを知らないけど──」

ソフィアが間違えた?
ソフィアは硬直した。ソフィアは、今まで彼の不貞を耳にしても、彼の恋人に当てつけのように夜の話をされても、ずっと黙り沈黙を守ってきた。王太子妃としてあるべき姿を守ってきたのだ──。それなのに、ソフィアに過ち?
何も言わないソフィアに、歳幼い少年は無邪気に彼女を見た。穢れを知らない瞳だ。強い純粋な瞳だ。ソフィアにはもう、無くしてしまったものだ。

「ねえ、ソフィアも十三歳に戻れないのかな?」

「──」

それは、思ってもみない言葉だった。予想外の言葉に、防衛できなかった心があっさりと傷つけられる。無邪気な言葉はどこまでも残酷で、容赦ない。ソフィアは唇を震わせた。

「そしたらきっとやり直せると思うんだ。ねぇ、ソフィア。今からでもディア博士に聞いて──」

「……じゃない」
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