2 / 55
ソフィア
奪われる日 2
しおりを挟むそれは王族の直系を確認するために編み出された秘匿魔法のひとつ。血を疑われることがないよう、その血の正確さを証明するために生み出された魔法は、次期王位継承者の体の一部にその証が刻印となって現れる。ロウディオの場合は胸元だったはずだ。王族を意味する薔薇の刻印……。
「戸惑うかもしれないが、ロウディオを助けてやって欲しい。きみにしか頼めない。……このような頼みをするなど、きみからしたら馬鹿にしていると思うかもしれないが」
「──いえ。それで私はどうしたら」
その気持ちに偽りはなかった。
ソフィアは本心でその言葉を口にする。王は分かりにくい鉄仮面と比喩されるその表情の相好をにわかに崩した。王も人の親なのだ。ソフィアはそれを理解した。
「すまない。貴殿の心遣いに感謝しよう。………言っても仕方ないことだが………きみのような娘が我が息子の妻でよかったと私は思っている。このようなことになって残念でならない……」
「陛下」
咎めるようにそばにたつ宰相──父が発言する。王は被りを振った。
「呪いをかけた人物についてはハッキリしている。この雪の霊風、恐らく魔女イゾルテの仕業だ」
「魔女イゾルテ……」
ソフィアが繰り返すと、王は頷いて答えた。
子供となった王太子はじっと冷静に話を聞いている。13歳と言えば王宮学校に入学する年齢だ。ソフィアが思うほど王太子は子供になってしまった訳では無いのだが、それにしたって二十五歳から十三歳に若返ってしまえば動揺もする。
しかもこの年頃のソフィアとロウディオは思春期突入の時期でもあって会話らしい会話はなかった。どちらかというとソフィアはロウディオを苦手とすら思っていた。
一言で言うのなら13歳のロウディオはとんでもない生意気なクソガキだったのだ。苦手とすらしていた13歳のロウディオを前に落ち着いているとよく言われるソフィアも冷静さを失ってくる。しかしそれでも表情は変わっていないところはさすがというべきか。
ソフィアは魔女イゾルテと言われた彼女の姿を脳内に描いた。紫銀の髪に青い瞳の、全体的に冷たい印象を受ける女性の姿を取った魔女だ。一時、ロウディオとは恋仲にあったと風の噂で聞いたことがある。
「……きみも知っていると思うが、魔女イゾルテはロウディオに袖にされた恨みがある。魔術痕からしても魔女イゾルテの仕業に間違いは無いはずだが……」
王は言い淀む。言葉を引き継いだのはソフィアの父、宰相だった。
「殿下の呪いの解呪には、女性との性行為とあります。ソフィア、お前は呪い解呪の手助けをしてやりなさい」
「それは……」
既に夫婦のソフィアとロウディオだ。今更肌を合わせることに躊躇いはないが……。ちらりとソフィアはロウディオを見た。
ロウディオは幼い頃から長身の子供だったので、13歳の今もソフィアより数インチほど背が高い。しかしロウディオは俯いているので視線は交わらない。それでも幼い少年の丸い頭が目に入って、ソフィアはくらくらしてしまった。
「でなければ魔女が手ずから呪い解呪の手助けをするであろうな。アレはそれが狙いのはずだ」
「………」
「適任者はきみしかいないのだ。頼めぬか?」
国王は縋るような目でソフィアを見た。ソフィアはその実、それが懇願という名の命令だということをよく理解していた。しかしそれでも表向きは"お願い"という手段をとる王は確かにソフィアのことを尊重してくれているのだろう。
(ほかの令嬢を宛がえば面倒なことになる……。とはいえ、娼婦や未亡人に頼むとしても、殿下からしたらあまりにも突然すぎる)
ロウディオは閨教育をすっぽかした、ということをソフィアは聞いたことがある。座学は受けたが実技は嫌がり実技を控えた夜、窓から外に逃げ出したというのは初夜の日に彼から茶化して聞かされたことだった。であれば、逃げるほど嫌がった閨の実技を受けさせるのは酷というものだろう。
だけど、ともソフィアは思う。
ロウディオはソフィアとして以来今までの禁欲は何だったのかと思うくらい女遊びが酷くなった。元々顔立ちが非常に整っているロウディオだ。遊び相手は男女ともに困らないだろう。
ソフィアは微かな抵抗を試みて黙り込んだが、やがてこくりと頷いた。
「謹んでお受けいたします……」
こうして、25歳のソフィアと13歳のロウディオの性交チャレンジが幕を開けたのだ──。
74
お気に入りに追加
974
あなたにおすすめの小説
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
麗しのラシェール
真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」
わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。
ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる?
これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。
…………………………………………………………………………………………
短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
『別れても好きな人』
設樂理沙
ライト文芸
大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。
夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。
ほんとうは別れたくなどなかった。
この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には
どうしようもないことがあるのだ。
自分で選択できないことがある。
悲しいけれど……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
登場人物紹介
戸田貴理子 40才
戸田正義 44才
青木誠二 28才
嘉島優子 33才
小田聖也 35才
2024.4.11 ―― プロット作成日
💛イラストはAI生成自作画像
忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる