〈完結〉【電子書籍化・取り下げ予定】私はあなたのヒロインにはなれない。

ごろごろみかん。

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運命の歯車はどこで狂った?

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リュアンダル殿下が受けた特性攻撃はどういうものなのか、私はなにか役に立てないか、いてもたってもいられずにいると従僕に声をかけられた。
宰相閣下が私を呼んでいると言う。
十中八九、リュアンダル殿下についてだろう。
叱責を受けるのは当然として、彼の様子を知りたい私はすぐさま頷いた。

胸が絞られるように痛い。
セカンド特性は、精神に作用するものがほとんどだ。
ミレーゼの言葉を思い出す。

『精神特性と一口に言っても、狂気付加、睡眠付加、発情付加、記憶消去に記憶付加、あとは……魅了付加?そういった類のものが多いみたいよ』

特性攻撃を受けた直後、リュアンダル殿下の様子に変わりはなかった。
それは、効果が出るまでに時間がかかるためか、表面上には現れにくい特性なのか。

もし──万が一、受けた攻撃が【記憶消去】または【記憶付加】の特性だった場合。
私の【無効】の特性で相殺することはできるのだろうか。
私の特性は、基本的に特性攻撃にのみ発動する、と思われる。
付与された特性にまで反応するかは、私にすら分からない。
もし彼が受けた特性攻撃を無効化出来なかった場合、私は完全に役立たずだ。
王宮の一室に案内されると、そこには難しい顔で書類をめくる宰相閣下がいた。
ここは彼の仕事部屋のようだ。
執務机に座ったまま彼は、手元の書類から視線を外すことなく私に言った。

「ヴァネッサ公爵令嬢、急に呼びだてして申し訳ない。ことは一刻を争うものですから」

「……この度は、殿下をお守りすることが出来ずたいへん申し訳ございませんでした」

ドレスの裾を摘んで、顔を伏せる。
空色のドレスは、彼の瞳に合わせて用意したものだった。腰から下に流れる繊細なレース編みと白藍色の生地は、とても美しい色合いなのに今はひどく物悲しく映る。
宰相閣下が探るように目を細めた。
そして僅かに思案する素振りを見せたのち、口を開く。

「……殿下は今、たいへん苦しんでおられる」

「──」

「ご令嬢。あなたは、あなたの不手際により殿下を苦しめていると思うのであれば、その責任を取っていただきたい」

「つまり……どうすれば?」

声は、僅かに震えてしまった。
宰相閣下、ミレーゼの父。

ロイド伯爵家は三大公爵家の派閥に属していない。
むしろ、ロイド伯爵家は歴史や格式を重んじる三大公爵家派と対立する改革派の筆頭貴族だ。
改革派は、功績に重きを置く。
三大公爵家に対立する改革派の筆頭貴族だからこそ、宰相閣下は三大公爵家の娘である私にも謙る態度は取らない。
宰相閣下は、静かに話し出した。

「まずは、殿下のご様子を見てからです。あなたの特性が効くかもしれない」

「…………はい」

宰相閣下は、その場で答えを教えてはくれなかった。
私は彼に先導されて、殿下の私室へと向かう。
彼の婚約者となってから十年、登城したことは何度もあるけれど、王族のプライベートエリアに足を運んだのは初めてだった。

彼の私室が近づく度に、足が震える。
良くないことが起きているのではないか、と。
私の想像を絶するような悪しきことが起きているのではないかと思うと、気が気ではなかった。
私は自身の手を重ねるようにして、震えを押し殺す。

不安と恐れで綯い交ぜになりながら彼の私室に辿り着くと、扉を守る近衛騎士が敬礼する。
宰相閣下が頷いて、部屋を開けるよう命じた。

リュアンダル殿下の私室は、白檀の香りがした。
ちらりと周囲を見渡すと、茶色の壁紙が目に入る。見事な意匠が木目に刻まれている。おそらく、高名な細工師によるものだろう。
私室には窓際にロールトップデスク、中央に白のラウンドテーブルが置かれ、カウチソファが二対、設置されている。
さすが、王太子の私室なだけあってその家具がどれも美しい。
調度品は優美な曲線を描き、緻密な彫刻が彫られ、贅沢な装飾、華やかな色彩に溢れている。
上を見上げれば、かの有名な画家の天井画が嵌められている。
実に彼らしい部屋だと思った。
いつもリュアンダル殿下は、ここで日々を過ごしているのだろうか。
そんなことを考えていると、宰相閣下がさらに部屋を横切り、続き部屋の扉をノックした。

「殿下、ロイドです。開けてください」

私は宰相閣下の後ろに立ちながら、じっと部屋を見つめた。この先が、リュアンダル殿下の寝室なのだろう。
今、彼はそこにいるのだ。
彼の返答は、遅れて返ってきた。

「誰も、入るな」

「このままやり過ごすおつもりですか。それが難しいのは殿下もご存知でしょう。陛下からの命もあります。開けていただきますよ」

「言ったはずだ、誰もいれるな……!」

苦しげではあったが、怒鳴るような声だった。
切羽詰まった、彼のそんな声を聞いたのは初めてでびくりと肩を竦める。
宰相閣下は、しばらく扉を見ていたが、やがてため息を吐いた。
そして、私に向き直る。

「お伝えしましょう。……殿下はおそらく、【発情付加】の特性攻撃を受けたと思われます」

「は……っ?」

宰相閣下の口から、思いもしない単語が出てきて絶句する。
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