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シュネイリアを殺す方法
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【無効】の特性を持っていたからこそ、私は死んだ。
それは大きなヒントだ。
無効は、特性攻撃を全て相殺することができる。
リュアンダル殿下は、生まれながらの王太子で、王家には彼の他に子がいない。
だからこそ、リュアンダル殿下は幼い頃からずっと、命を狙われて生きてきた。
彼の周りには常に複数の近衛騎士が守り、攻撃に特化した特性を持つ文官が囲んでいる。
厳重すぎるほどの守りだが、それでもその守りの隙を狙って奇襲を受けることは度々あった。
『彼女の特性を考えるに、短命であったのは仕方の無い話だったのかもしれませんが』
私の特性は【無効】。
つまり──おそらく、私は彼を庇うか、あるいは特性攻撃を受けて、命を亡くしたのではないだろうか。
それであるなら、リュアンダル殿下が長年私を忘れられずにいる、というのも納得がいく。
王太子の婚約者という立場であるが、私に利用価値は正直、あまりない。
珍しい無効の特性持ちの人間ではあるが、それだけだ。政治的利用価値はないに等しい。
それ以上に、リュアンダル殿下を亡きものにした方が、よっぽど利になる人間は多いだろう。
特に、ルディグラン公爵家を支持するものは。
ルディグラン公爵家の前当主は現国王陛下の実弟だ。今から五年前に落馬し、すでに亡くなっている。
そのため、現公爵家当主はヴァーゼルの母方の弟、つまり彼の叔父が代行していると聞く。
ヴァーゼルが成人し、引き継ぎが終わったら彼に公爵位を相続させることが決まっているのだ。
ヴァーゼルとリュアンダル殿下は従兄弟同士。
だからこそ、ヴァーゼルを次期国王に、と推す声があるのだ。
ヴァーゼルを王位につかせるには、リュアンダル殿下が邪魔になる。
だが、逆に言ってしまえば、リュアンダル殿下さえ亡きものにしてしまえば、もう子を作れない国王夫妻は、次期王位にヴァーゼルを指名しなければならない。
国王は、たいへんな愛妻家で、王妃以外に妃を持つ気は無いと以前から公言していた。
リュアンダル殿下が昔から命を狙われるのも、王位をめぐってのものだ。
ヴァーゼル自身は王位を求めていないようで、ルディグラン公爵家を支持する人間と王家を守る人間の不仲を緩和させるためにも、よくリュアンダルと親しそうにしているところを見せている。
もともと、気が合うというもの大きいだろうが、意図的に彼らは公の場で話すようにしているように見えた。
私が死んだ、ということは【無効】の特性を看破されたか、あるいは、特性を使えない状況下にあったのかもしれない。
私は友人の家を訪ねて、特性訓練を手伝ってもらうよう頼んだ。
彼女──宰相の父を持つロイド家の令嬢、ミレーゼ・ヴァ・ロイドは、私の依頼に目を丸くしていたが、快く引き受けてくれた。
「特性の訓練なんて、久しぶりだわ。ある程度制御できるようになったら、訓練なんてしなくなるもの」
ロイド伯爵家が有する訓練場に移動した私たちは、ぐっと伸びをした。
訓練を行う前には、じゅうぶんにストレッチをしておかなければならない。
事故を防ぐためだ。
「でも、思うままに特性を放てるなんて、とっても楽しみ!いつも周囲に気遣って、コントロールを心がけているのよ。ほら、私の特性はひとを死に至らせてしまうこともあるから」
そう言う彼女の特性は【雷】だ。
指先で魔法陣を描き、虚空から雷撃を生み出す。
それが、ミレーゼの特性だった。
ロイド伯爵家は、三大公爵家ではないものの、社交界でもトップクラスの家柄だ。
三大公爵家に権力が集中することを面白く思わない、ほかの貴族の不満を解消する役割も任せられている。
ミレーゼは、巻き髪が特徴的な、ダークブラウンの髪をしている。光に照らされたスモーキークォーツのような瞳に、抜けるように白い肌。深窓の令嬢、というのは彼女のためにあるのでは、というほど可憐な少女だった。
同じ白い肌を持つとはいえ、白すぎて人外を疑われる私とは大違いだ。
赤目の人間は、色素が薄いとは言われるが、赤目とこの白の肌は相性が悪く、他人に嫌厭される所以となっている。
訓練開始の合図を行い、互いに互いの特性をぶつける。
次々に雷撃を生み出すミレーゼの特性を、神経を集中してかき消していく。
言葉もなく、訓練に集中していたが、先に音を上げたのはミレーゼだった。
「も、もう無理ぃ……。休ませて」
「大丈夫よ。ごめんなさい。無理をさせてしまったかしら」
慌てて彼女の元に行くと、ミレーゼはへろへろとその場に座り込んだ。
よっぽど体力を消耗したようで、肩で息をしている。
「無効は、通常の特性攻撃より体力を消耗しないんだっけ?羨ましい限りだわ……」
ぜえぜえと息をする彼女を見て、私もまた彼女の前に座り込みながらふと、考えた。
「……ねえ、ミレーゼ」
「なに?」
「あなたが、私を殺そうと……的確に殺そうとするなら、どういう手を使う?」
敵の目的はリュアンダル殿下だが、彼を守る私は邪魔になるだろう。先に排除されるのは私だ。
だからこそ、一年後、私は死ぬのだから。
私の質問にミレーゼは目をぱちくりさせていたが、やがて唸るように考え込んだ。
「シュネイリアを?……的確に!?」
ミレーゼはしばらく考え込んでいたがふと、思いついたように言った。
「セカンド特性なら……?」
それは大きなヒントだ。
無効は、特性攻撃を全て相殺することができる。
リュアンダル殿下は、生まれながらの王太子で、王家には彼の他に子がいない。
だからこそ、リュアンダル殿下は幼い頃からずっと、命を狙われて生きてきた。
彼の周りには常に複数の近衛騎士が守り、攻撃に特化した特性を持つ文官が囲んでいる。
厳重すぎるほどの守りだが、それでもその守りの隙を狙って奇襲を受けることは度々あった。
『彼女の特性を考えるに、短命であったのは仕方の無い話だったのかもしれませんが』
私の特性は【無効】。
つまり──おそらく、私は彼を庇うか、あるいは特性攻撃を受けて、命を亡くしたのではないだろうか。
それであるなら、リュアンダル殿下が長年私を忘れられずにいる、というのも納得がいく。
王太子の婚約者という立場であるが、私に利用価値は正直、あまりない。
珍しい無効の特性持ちの人間ではあるが、それだけだ。政治的利用価値はないに等しい。
それ以上に、リュアンダル殿下を亡きものにした方が、よっぽど利になる人間は多いだろう。
特に、ルディグラン公爵家を支持するものは。
ルディグラン公爵家の前当主は現国王陛下の実弟だ。今から五年前に落馬し、すでに亡くなっている。
そのため、現公爵家当主はヴァーゼルの母方の弟、つまり彼の叔父が代行していると聞く。
ヴァーゼルが成人し、引き継ぎが終わったら彼に公爵位を相続させることが決まっているのだ。
ヴァーゼルとリュアンダル殿下は従兄弟同士。
だからこそ、ヴァーゼルを次期国王に、と推す声があるのだ。
ヴァーゼルを王位につかせるには、リュアンダル殿下が邪魔になる。
だが、逆に言ってしまえば、リュアンダル殿下さえ亡きものにしてしまえば、もう子を作れない国王夫妻は、次期王位にヴァーゼルを指名しなければならない。
国王は、たいへんな愛妻家で、王妃以外に妃を持つ気は無いと以前から公言していた。
リュアンダル殿下が昔から命を狙われるのも、王位をめぐってのものだ。
ヴァーゼル自身は王位を求めていないようで、ルディグラン公爵家を支持する人間と王家を守る人間の不仲を緩和させるためにも、よくリュアンダルと親しそうにしているところを見せている。
もともと、気が合うというもの大きいだろうが、意図的に彼らは公の場で話すようにしているように見えた。
私が死んだ、ということは【無効】の特性を看破されたか、あるいは、特性を使えない状況下にあったのかもしれない。
私は友人の家を訪ねて、特性訓練を手伝ってもらうよう頼んだ。
彼女──宰相の父を持つロイド家の令嬢、ミレーゼ・ヴァ・ロイドは、私の依頼に目を丸くしていたが、快く引き受けてくれた。
「特性の訓練なんて、久しぶりだわ。ある程度制御できるようになったら、訓練なんてしなくなるもの」
ロイド伯爵家が有する訓練場に移動した私たちは、ぐっと伸びをした。
訓練を行う前には、じゅうぶんにストレッチをしておかなければならない。
事故を防ぐためだ。
「でも、思うままに特性を放てるなんて、とっても楽しみ!いつも周囲に気遣って、コントロールを心がけているのよ。ほら、私の特性はひとを死に至らせてしまうこともあるから」
そう言う彼女の特性は【雷】だ。
指先で魔法陣を描き、虚空から雷撃を生み出す。
それが、ミレーゼの特性だった。
ロイド伯爵家は、三大公爵家ではないものの、社交界でもトップクラスの家柄だ。
三大公爵家に権力が集中することを面白く思わない、ほかの貴族の不満を解消する役割も任せられている。
ミレーゼは、巻き髪が特徴的な、ダークブラウンの髪をしている。光に照らされたスモーキークォーツのような瞳に、抜けるように白い肌。深窓の令嬢、というのは彼女のためにあるのでは、というほど可憐な少女だった。
同じ白い肌を持つとはいえ、白すぎて人外を疑われる私とは大違いだ。
赤目の人間は、色素が薄いとは言われるが、赤目とこの白の肌は相性が悪く、他人に嫌厭される所以となっている。
訓練開始の合図を行い、互いに互いの特性をぶつける。
次々に雷撃を生み出すミレーゼの特性を、神経を集中してかき消していく。
言葉もなく、訓練に集中していたが、先に音を上げたのはミレーゼだった。
「も、もう無理ぃ……。休ませて」
「大丈夫よ。ごめんなさい。無理をさせてしまったかしら」
慌てて彼女の元に行くと、ミレーゼはへろへろとその場に座り込んだ。
よっぽど体力を消耗したようで、肩で息をしている。
「無効は、通常の特性攻撃より体力を消耗しないんだっけ?羨ましい限りだわ……」
ぜえぜえと息をする彼女を見て、私もまた彼女の前に座り込みながらふと、考えた。
「……ねえ、ミレーゼ」
「なに?」
「あなたが、私を殺そうと……的確に殺そうとするなら、どういう手を使う?」
敵の目的はリュアンダル殿下だが、彼を守る私は邪魔になるだろう。先に排除されるのは私だ。
だからこそ、一年後、私は死ぬのだから。
私の質問にミレーゼは目をぱちくりさせていたが、やがて唸るように考え込んだ。
「シュネイリアを?……的確に!?」
ミレーゼはしばらく考え込んでいたがふと、思いついたように言った。
「セカンド特性なら……?」
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