〈完結〉どうやら私は二十歳で死んでしまうようです

ごろごろみかん。

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戻れると思いたかった

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お姉ちゃんは結婚して、桜庭と苗字を変えた。初めて会った彼氏さんは静かで、私を妹のように接してくる人だった。
そして、彼の弟だという柊成くんはお兄さん以上に静かで、会話という会話が全くなかった。お父さんたちが建てた家を取り壊すのは、思い出そのものを失うような気がして、結局そのまま住むことになった。桜庭さんと柊成くんがうち引越してきて、新生活が始まった。私の部屋はそのままだったが、元々あったお姉ちゃんの部屋は柊成くんが使うことになり、お父さんとお母さんの部屋を桜庭さんとお姉ちゃんが使うことになった。
お金のことはお姉ちゃんがちゃんとやつてくれてるのだと、この前どこかの会社に遺産相続の電話をしているお姉ちゃんを見て、知った。私は何もしていない。だけどお姉ちゃんは全部やってくれていた。お姉ちゃんは大人だし、社会人だから対応するのが普通なのかもしれない。でも、もしお姉ちゃんがいなかったら。私一人だったらきっと何も出来なかった。そう思うと、やっぱりお姉ちゃんがいて良かったと思う。
お姉ちゃんと桜庭さんは新婚だからか、出かけることが多かった。休みの日はちょっと遠出して旅行するのだと言って、今日も家には私と柊成君しかない。
私一人だったら寂しかったかもしれない。お父さんとお母さんの時と何も変わらないと不貞腐れていたかも。でも、いまは柊成くんがいる。ひとりじゃないということは、とても心強かった。

リビングに向かうと、柊成くんがいた。
今日は朝から天気が悪く、雲がかかっている。そのせいで全体的に暗い雰囲気のリビングの中、でも怖いとか、心細さを感じないのは柊成くんがいるからだった。人間って不思議だな。ひとがいるだけで、とても心強い。寂しい、なんて思わない。

「何してるの?」

「………宿題」

「へぇ、偉いね」

「いや明日提出だから」

明日提出の宿題を前日にやるとは、あんまり偉くなかったかもしれない。いや、やるだけ偉いのか。そう思いながら私は冷蔵庫から麦茶を取り出して、テーブルにコップを並べた。お姉ちゃんたちが家にいない時が多いからか、柊成くんとはぽつぽつ話すようになった。でも、やっぱり全体的に柊成くんは静かだ。
ふたりで話しててもやっぱりリビングの雰囲気はどんより重いから、気を紛らわせるためにテレビをつけた。すると、すぐに賑やかな声が聞こえ始める。

「私もいましたよ、イマジナリーフレンド」

聞き馴染みのない言葉が聞こえてきて、思わずテレビを見る。ソファに腰掛けると、柊成くんも宿題をやる手を止めて、テレビを見ていた。

「みなちゃんって名前付けて、ずっと一緒にいました。でもある日突然いなくなっちゃうんですよね、どんなに探してもいなくて」

テレビでよく目にするタレントが、思い出すようにしながら話す。驚いた顔をするのは、MCを担当する芸人だ。

「ええ、本当に見えるの?それって思い込み?幻なんだよね?」

「幻です、幻。でも当時は本当にいると思ってて、だから従姉妹にもすごい不気味がられて」

笑いながら話すタレントの言葉に、MCの芸人が話しかける。

「自分が生み出した幻ってことなら、やっぱり自分のことも一番わかってるの?」

「そうですね。元々私寂しがり屋だったんで、だから作り出しちゃったのかも。みなちゃんはすごい気が合う子で、気心知れてましたね~」

「そりゃ、自分で生み出してるからね」

MCの言葉にドッとテレビの中で笑い声が起きる。イマジナリーフレンドか………。そんな当たり前にいるものなのかな。そう思ったけど、ふと思い出すものがあった。
……あれ?私、最近フラフープに会ってない。お姉ちゃんとのことがあってから、フラフープは以前よりももっと姿を現さなくなった。めっきり顔を見せなくなったフラフープに、そのうちまたふらっと現れるだろうと思っていたけれど、ここ最近は全く見ていない。
どきり、とした。

「子供の成長と共に姿を消すイマジナリーフレンド。しかし、大人が見る場合も………?」

テレビのナレーションが画面に映りこんだ文字を読み上げる。
フラフープは……私が生み出した幻影だった?でも、ちゃんと触れたし感触もあった………。
ふと、そう言えば初めて会った時のフラフープの言葉を思い出す。

『きみは20歳で死んじゃうんだもん。あまりにも不憫で可哀想だから、僕が助けてあげるんだもん!』

あの時は馬鹿げていると思ったし、まだ夢を見ているのだと思っていた。そしてそれ以上に、可哀想可哀想連呼するフラフープにいらだちが募った。私は可哀想じゃない。小学生の頃、授業参観があって、でも私だけ、親が来てくれなかった。それを見たクラスメイトが、葉月ちゃん可哀想だね、って言った。その隣には優しそうな顔をしたその子のお母さんがいて『お仕事だから仕方ないでしょう』みたいなことを言っていた。それで、その子のお母さんはその子を見て、『ほら、もう帰るよ。今日ご飯どうしようか』と当たり前のように言った。その子はハンバーグがいい!と言って、お母さんはまたぁ?と笑った。それをごく自然に話していたふたりが凄く羨ましくて、でもそれを認めたらもっと"可哀想"になると思って、言えなかった。可哀想、って言われるのが、すごく嫌だった。私は可哀想じゃない。今は、お父さんやお母さんはあまり家に帰ってこないけどきっといつか、また以前のように楽しく話せるはずだと。前みたいな周りのような普通の家族に戻れると。そう確信していた。何の根拠もないのに。
今思えば、きっと私はそう信じたかったのだろう。
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