王子様の呪い

ごろごろみかん。

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学園の裏庭

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「お呼び立てして申し訳ございませんわ」

リーゼロッテはそう言って綺麗な笑みを浮かべた。今日の彼女はくるくるとした黒髪の巻き毛を緩く編み込み、それを結っている。何筋か後れ毛がこぼれおちて、リーゼロッテの魅力を最大に引き出していた。
彼女の髪には蝶を飾る髪飾りがある。

「いや………それより、この間は災難だったね」

そんなリーゼロッテに対する相手は、一人の男だった。男は名をアシュと言い、平民だった。男はふくよかな体型をしていて、お世辞にも顔が整っているとは言えない。目は小さく、鼻はぽんと置かれたような形で、唇も細長く横に伸びている。顔のパーツより明らかに肌の面積が大きい。つまり、アシュはふくよかでかつ不細工な男性だった。キョロキョロとした目はどこか小動物のように見えるし、癒し属性にも見えるかもしれない。いい人そう、という印象はみな持つだろう。実際アシュはその見た目通り優しい性格をしていた。リーゼロッテと大して変わらない身長の彼に、リーゼロッテは嬉しそうに笑った。

「そうなんですの。わたくし、カイゼル殿下と婚約破棄しましたのよ!」

「そっか………。それはおめでとう、でいいのかな?」

学園の裏庭に呼び出されたアシュはリーゼロッテの言葉に少しだけ笑みを浮かべた。気遣うような、心からそう思っているような笑みにリーゼロッテは頬を弛めた。

「ふふ…………ええ。おめでとう、でいいの。それで…………それでね。アシュ」

「うん、どうしたの。リーゼロッテ」

最初はリーゼロッテに敬語を使っていたアシュだが、しかしリーゼロッテ本人によって二人の時は敬語を外して欲しいと言われたのだ。平民である彼が公爵令嬢のリーゼロッテと気安く話すなど恐れ多い。

アシュはそう言ったが、彼女は「二人きりの時だけお願い」と続けた。強くそういう彼女にアシュは押し切られーーーそれから、二人は二人の時はこうして話すようになった。

…………とはいえ、リーゼロッテは未婚の令嬢でかつ婚約者がいる。そんなリーゼロッテがアシュと二人きりになるのは褒められた行為ではなく、彼らが二人きりになったことなど数えられる程度だ。それも、偶然二人になってしまった、というような状況で。

リーゼロッテは晴れ晴れとした気持ちでアシュを見た。同じくらいの身長に、どこかパンダを思い出す目。ぷにぷにの柔らかな手。男としての魅力はあまりにもないほどだが、それでもリーゼロッテは彼が好きだった。なぜなら、リーゼロッテは彼に救われたのだから。
リーゼロッテは目を閉じて、それから彼に告げた。

「………アシュ、あなたが好きよ。私と………恋人になって」

その言葉にアシュが目を見開く。そしてややあってから、乾いた笑いを零した。

「リーゼロッテ。冗談だろう?僕はこんな見た目だし…………からかってるならそういうのはやめてほしい。慣れてないんだ」

冗談だと思い込んでいるアシュに、リーゼロッテは踏み切った。二人の間に保っていた距離を全て埋め、近い身長だからこそ可能なことーーー。リーゼロッテからアシュにキスをしたのだ。しかし勢いあまりすぎてガチン、と歯がぶつかった。

「痛っ………!」

ーーー失敗した!!

婚約者のカイゼルと妹のアデルは自由奔放にも程があったが、しかしリーゼロッテは文字通り箱入りなのである。そんな彼女がキスの仕方など知っているはずがない。勢いあまりすぎて歯をぶつけるという失態を犯したリーゼロッテは耳まで赤く染めた。

「ごっ…………ごめんなさい。嫌だった…………?」

してから聞くことではないが、不安になってリーゼロッテは聞いた。アシュは耳まで真っ赤だった。白熊を追い出させるような真っ白な頬が真っ赤に染っていふ。そのパンダのような目も驚きに丸くなっていてリーゼロッテは愛しい気持ちが込み上げた。満面の笑みを浮かべて、リーゼロッテは言う。

「ねぇ。好きなの。本当に、好きなのよ」

「本当に…………?僕のことが…………」

アシュの唇は切れていた。リーゼロッテが勢いをつけすぎたせいで歯が当たったのだろう。それに気がついてリーゼロッテは慌ててハンカチを取り出した。怪我をさせるつもりはなかった。ちょっぴりリーゼロッテは申し訳ない気持ちになりながら彼の口元を脱ぐう。そして、切ない感情をそのままに伝えた。

「…………ええ。もちろんよ。私はあなたが好き。あなたを、愛してるの。私を助けてくれた、救ってくれたあなたのことを………想っているの」

リーゼロッテがそういった時、しかし思わぬ事態が起きた。突然太陽光のような光があたりに迸ったのだ。アシュの口元を拭っていたリーゼロッテは悲鳴をあげた。アシュもまた驚いたように息を飲んだ。

「きゃあ……………!?」

そして、光が収まった時ーーー。

リーゼロッテの目の前には、見知らぬ青年がいた。

リーゼロッテは彼の胸元にハンカチを差し出した中途半端な体勢で青年を見た。震える声で尋ねる。

「だ……………だれ……………?」
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