王子様の呪い

ごろごろみかん。

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大広間

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「お前との婚約を破棄する!!リーゼロッテ!!」

リーゼロッテはその劈くような声に思わず眉をしかめた。そして嫌そうな表情すらしないものの瞳に侮蔑の色を浮かべて自分の婚約者である第二王子を見るのだ。

「あら、突然どうなさったのですか?」

リーゼロッテの涼やかな声が広間に響く。今は夜会の最中だった。国王と王妃、そして最近妊娠した王太子妃のために王太子は既に場を去っている。今この場にいる王族は第二王子のみとなる。
リーゼロッテの冷えた視線を受けながらも王子は得意げに答えた。第二王子はその赤毛を後ろでひとつにまとめている可愛い顔立ちをした青年だった。
そして第二王子の隣には華奢な娘がたっている。少女の名はキャサリン。キャサリン・レトリヴァー子爵家の養女である。マゼンタ色の鮮やかな髪はカールしていてふわふわしている。大きな瞳も庇護欲を煽るようで、一言で言えば愛らしい少女だ。

リーゼロッテはそれとは逆で長い黒髪をハーフアップにしている娘だった。瞳の色は青。猫目がちで少しつり目。見た目のせいで性格がきつそうと思われることも多々あった。だけどリーゼロッテはその容姿とは裏腹にとても傷つきやすい性格をしていた。
一度はこのクズ王子のせいで酷く傷ついたものだ、と内心リーゼロッテは独りごちた。

「お前がキャサリンに辛く当たっていたのは知っている!それより、お前との婚約を破棄しキャサリンと婚約を結びなおす!!」

ざわめく広間。ひそめられた声。
それを聞きながら、リーゼロッテはちらりとキャサリンに視線を流した。キャサリンは少し頭の弱い子なのか、勝ち誇った笑みを浮かべてリーゼロッテを見ていた。リーゼロッテが悲しみ悔しがるかと思ったのだろうか?ありえない。むしろ突き返せるなら熨斗をつけて返したい。それくらいにこの王子はダメダメすぎる。ダメンズ オブ ダメンズ。二度とかかわり合いになりたくない。
そう、第二王子は女癖がめちゃくちゃ悪かった。リーゼロッテの嫌いな男のタイプは女にフラフラしてるやつである。つまり第二王子のカイゼルはリーゼロッテの嫌いな対象の男だった。しかもリーゼロッテにまで粉をかけておいて相手をしなければよその女に行くという最低行為付き。誰がそれで惚れるというのか。

(これでも一時期悩みに悩んだのに…………)

リーゼロッテは考えて、それから顔を上げた。瞬く間のあいだにいちゃつき出したカイゼルとキャサリンに声をかける。

「それはおめでとうございます」

「今更後悔しても遅いぞ」

(誰が)

リーゼロッテは顔には出さずに、そのまま続けた。

「私との婚約破棄、謹んで承ります。もとよりわたくしも、本日はその話をしようと思って参ったんですの」

「………何?」

訝しむような顔をしてカイゼルが言う。リーゼロッテはパチン、と自分の扇を手のひらに叩きつけて、かつかつとヒールを鳴らして彼らの前まで歩いた。そして、自分より背の低いキャサリンをちらりと見る。キャサリンは思わぬリーゼロッテの態度に戸惑っているようだった。

「まず、わたくしとの婚約はただの惚れた腫れたの恋愛ごとじゃありませんの、お分かり?」

「何が言いたい」

リーゼロッテに苦言を呈された第二王子が苦々しげな顔をする。対照的にキャサリンはわざとらしいほどに怯えた様子でカイゼルに抱きついている。か弱い少女が自分に縋っていると感じいい気になったカイゼルはリーゼロッテを強く睨みつけた。2人の世界を演じるのはどうでもいいけどそれにリーゼロッテを巻き込まないで欲しいと彼女は思った。

「これは我がデストロイー公爵家と王家の契約なんですのよ。3代前の国王………あなたからみてひいおじい様に当たるかしら?その時に公爵家が貸し付けたお金の返済を待つ代わりにわたくしとの婚約が結ばれましたの。つまり、王太子妃の座、王妃の席は担保なんですのよ、借金の。お分かり?」

「………そんな話は聞いてない。デタラメじゃないのか」

第二王子が唸るように言う。リーゼロッテはそんな彼の顔をつまらない思いで見ていた。よく言うわ、聞いてないんじゃなくて聞こうとしなかったんじゃないの。カイゼルは女と遊ぶばかりでろくに勉強をしてこなかった。勉学が大嫌いなのである。カイゼルに甘い王妃は何も言わず、腐りきっている。

「デタラメかどうかは後で判断なさって。それに…………」

そこでリーゼロッテはちらりと周りを見渡す。そして、見知った茶髪を見つけると、リーゼロッテは声をはりあげて彼女を呼んだ。

「リデル!こちらにきなさい」

呼ばれた少女はリーゼロッテの義妹のリデルだ。リーゼロッテとは母親が違い、血も半分しか繋がっていない。リーゼロッテはこの奔放な少女に昔から苦労させられたものだ。なにか注意するとすぐ「お姉様は酷いわ!」と泣き始める。邸宅内ではいっリーゼロッテが悪者だった。だけどこの場において、初めて姉妹の目的は一致していた。
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