王妃の鑑

ごろごろみかん。

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そのあと(3)

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そして、なぜノアの存在が秘匿されていたのかということを。
年に一回、魔狩りという行事がある。その顔合わせで、ノアと陛下は会っているはず。
ノアの魔力は膨大だ。そして、この国を守る結界は王族が張っている。
だけど誰が結界をはっているのか、王妃となった私でさえもその存在は明かされていなかった。
おかしくないかしら?王妃であるのなら、知っていてもおかしくない。でも、知らされなかった。それは、ノアのーーー彼の出自を、伏せる必要があったから。
たしか、この国を守る結界が初めて張られたのはちょうど二十年前だったはず。ノアの年齢とピッタリあう。

「俺、多分さぁ」

「……ん?」

物思いに耽っていると、ノアが突然言った。

「最初、偶然ネアモネちゃんに俺がぶつかったって言ったじゃん?」

「………ああ、うん。そうだったわね」

最初、ノアは私にぶつかってきたのだ。そして、小さくて見えなかったとも言った。

ーーーっと………ごめんね、小さなお嬢さん。怪我はないかな

目を閉じる。あの時はまだ、私は子供で、ノアは青年だった。身長差もすごくて、私は見上げなければならなかったのだ。
その時のことを思い出していれば、ノアがなんとなしに言った。

「多分、それ俺わざとだと思う」

「え?」

「だって俺、きみがその時間軸にいない、ってわかってたんでしょう?なら、完全に黒だよ」

「え?え、でも」

「でももへちまもしゃちほこもない、絶対そうだから。てか俺ならそうするし」

「しゃちほこ………」

言いながら私は紅茶に浮かんだスライスレモンを見つめる。
そっか、あれ、わざとだったの………。でも確かに胡散臭がったし、しつこかった。確かに故意的にも見える。

「確信犯だったのね?」

「まあまあまあ。でもネアモネちゃんは、俺と出会って良かったでしょ?」

ほら、ああいうじゃん。
そう言ってノアは人差し指をぴんとさす。

「終わりよければすべてよしって?」

「…………良くないわよ」

「え~?」

ノアの言葉を聞いて、私はその手首をぐっと掴む。ノアは私の意外な行動にキョトンとしている。

「私のことはネアって呼んで。もうネアモネじゃないもの」

「ああ………あー、うん。そうだね」

「………もうネアモネじゃないの」

そう言うと、なんだかしっくりした。
神話の由来がある、血の色の花。文字通り血が流れでてそれが花となった、と言われているいわく付きの花だ。
なんだかんだ、ずっと囚われていたのかもしれない。ネアモネという名前に。私はもうただのネアだ。ただのネアなのである。

「………ネアちゃん?」

ノアが呟く。私は未だに掴んだままだったノアの手を離した。そして、言う。

「うん、またよろしくね。ノア」




ノアという名前は、前陛下がつけた名前らしい。産まれる前からその霊力の高さがわかっていたのだろう。
だからこそ陛下はノアという名前をつけた。

ノアの方舟のような、国を守る存在となって欲しいーーー。そんな願いを込めて。バカバカしいったらない。産まれる前の赤子に、なんてこと頼むのよ。


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