王妃の鑑

ごろごろみかん。

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そのあと

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「ふーん、へぇ………そう」

ノアが言ったのは、それだけだった。
意外にも淡白だ。もっと大袈裟な反応をするかと思ったのに。私が意外そうに見ているのが気になったのだろう。
ノアは紅茶に口をつけてから何か考え込んでいるようだった。ちなみに場所は図書館から移動している。

「だからかぁ……さっき、きみに魅了が効かなかったのは」

「あなた……サキュバスだったの?」

「あっはは、違うよ。魔法の一種。なんで俺の名前知ってんだろーって思って、とりあえず話させちゃうのが手っ取り早いかなって思ったんだけど」

そこでノアは区切ってから椅子にもたれた。彼は、青空を仰ぎながら言う。

「効かなかったんだもんなぁ~」

「………私の話、信じてくれるの?」

「あはは、信じるよ。当たり前じゃん。だってそのバフ、かけたの俺でしょ」

「……バフ?」

「なんで俺の魔法が効かなかったと思ってるの?俺が、多分ネアモネちゃんにかけたからだよ。防御魔法を」

「あ………」

 ようやく納得がいく。
ノアは、この世界でも五本の指に入るほどの実力を持った魔術師。そんなノアの魔法を防げるのは、確かにノアだけだろう。私が納得のいった声を出すと、ノアは手を空にかざしながら言う。

「ふーん?でもドラマティックな経験してきたんだねえ、すごいよ。ネアモネちゃん」

ノアに『ネアモネちゃん』と呼ばれる度に、違和感を覚える。彼は私のことをネアちゃんと呼んでいたから。勝手に呼び始めたノアのことを思い出す。あの彼と、今の彼は違う。同じ人物だけど、その記憶は共有していない。

「………聞きたいんだけどさぁ」

「何?」

私も紅茶で口を湿らせながら聞く。ノアは手をグーパーするのを何度か繰り返すと、私に言った。

「なんでネアモネちゃんは、陛下殺さなかったの?」

「ちょっ………あなた!」


 ここがどこだか忘れたのだろうか。城下のど真ん中でなんという発言をする。私が慌てたのを見て、ノアが「あ」という顔をした。そしてしたり顔で笑う。長い銀色のまつ毛が影を描く。

「大丈夫、防音結界張ってるから」

「………あのねぇ、そういうのは先に言ってほしいわ」

「はは、ごめんね」

ノアは、少しだけ真面目だ。以前のようにチャラチャラしていない。それは、私がこの年で彼と出会ったからなのだろうか。以前のノアとの差異が、やはり少しだけ寂しい。

「殺そうと………思ったわ」

「わあ、殺意高め」

「でも、しなかった」
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