王妃の鑑

ごろごろみかん。

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始まりから終わりに

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言うと、彼は訝しんでいるようだった。あの夢が、本当にデルセンの魔術だったかはわからない。だけど、どちらにせよ、私は彼に言わなくてはならないことがある。
こうなってしまったのは、私にも責任がある。さすがに全て私が悪いとは思わない。もちろん彼だって悪いと思っているから。だけど、ここまで拗れた原因が私の不貞………と彼が思っているのなら、言わなくてならない。
思ったより心は落ち着いていた。むしろ、早く言わなければと急いでいる。ゆっくり、落ち着いて言葉を繰り出す。その時、手に何かを持っているのに気がついた。

………何かしら?

そう思って、手を開いてみてみれば、それは夜闇でもはっきり分かるほどに煌めく、髪飾りだった。

ふ、と笑みをこぼす。そして、顔を上げた。

「私は、あなたのことが好きすぎるあまり、周りが見えてませんでした。それは、王太子妃、ならびに王妃としてありえない行為。それは深くお詫び申し上げます」

「何だと………?」

「ですが、陛下。あなたも、わたくしのことを信じ、信頼しなかった。あなたはまるで自分だけが被害者かのような顔をしてますけれど………心身ともに暴力を受けたわたくしのことをお忘れですか?それとも、自分で行ったことは、忘れられてる?」

言えば、陛下は私をきつく睨んできた。あれは、嘘ではない。夢でもない。幻でも、なかった。私は彼をみすえて、言いきった。

「わたくしが不貞を働いているとお疑いのようですけれど。………証拠は?証言をしたのは、どなた?」

「それをなぜお前に知らせる必要がある?口がすぎるな、ネアモネ。頭を打って全て忘れてしまったか」

「仰ってください。まさか、陛下ともあろうものが証拠もなくそれを事実を決めつけるようなこと……しませんわよね」

「………」

「ねえ、陛下。わたくしたちはよく似ていると思うんです」

黙ってしまった陛下に対し、私は立ち上がった。ふらつくかと思ったけれど、そんなことは無かった。しっかりと自分の足で踏み、彼の元に行く。見た目は、何も変わっていない。私も、陛下も。だけど確かに変わったものがある。
ここはどうやら崖の上らしかった。私が足を滑らせた崖なのだろう。さくさくと草を踏んで彼の前までいく。月光を浴びて、陛下の髪は純銀に見えた。

「例えば。傷つけられたら、相手に報復したく思うところとか」

そうして、私は背伸びをして、陛下の頬に触れた。彼は、動かない。ただ、私を見ている。彼の瞳が、探るように私を見ていた。
陛下の頬を撫でる。白皙の頬に触れる。彼の長いまつ毛が、影を落とす。私は陛下の胸に手を添えてたちながらそっとその頬の輪郭を指先でたどった。 

「夫婦は似る、とよく言いますけれど」

そのままつぅ、と顎まで指先を落としてから。
私は手を振りあげた。
パシッ………という軽い音が夜闇に響く。彼はよけなかった。叩いた時に爪で引っ掻いてしまったのだろう。彼の頬から一筋の赤が滲んだ。

「っ、」

「こんなところ、似ても嬉しくありませんわね」

そう言って、笑みを描いた。
陛下は、何も言わない。どうして何も言わないの。どうして、何も答えてくれないの。
私は彼から離れると、にっこり笑って答えた。

「本当は、こんなのじゃ全く足りません。だけど、いいです。その代わり」

離縁してください。

そうはっきり伝える。彼は、まっすぐ私を見ていた。

「よろしいでしょう?これが、あなたが招いた結果です」

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