92 / 105
始まりから終わりに
しおりを挟む
言うと、彼は訝しんでいるようだった。あの夢が、本当にデルセンの魔術だったかはわからない。だけど、どちらにせよ、私は彼に言わなくてはならないことがある。
こうなってしまったのは、私にも責任がある。さすがに全て私が悪いとは思わない。もちろん彼だって悪いと思っているから。だけど、ここまで拗れた原因が私の不貞………と彼が思っているのなら、言わなくてならない。
思ったより心は落ち着いていた。むしろ、早く言わなければと急いでいる。ゆっくり、落ち着いて言葉を繰り出す。その時、手に何かを持っているのに気がついた。
………何かしら?
そう思って、手を開いてみてみれば、それは夜闇でもはっきり分かるほどに煌めく、髪飾りだった。
ふ、と笑みをこぼす。そして、顔を上げた。
「私は、あなたのことが好きすぎるあまり、周りが見えてませんでした。それは、王太子妃、ならびに王妃としてありえない行為。それは深くお詫び申し上げます」
「何だと………?」
「ですが、陛下。あなたも、わたくしのことを信じ、信頼しなかった。あなたはまるで自分だけが被害者かのような顔をしてますけれど………心身ともに暴力を受けたわたくしのことをお忘れですか?それとも、自分で行ったことは、忘れられてる?」
言えば、陛下は私をきつく睨んできた。あれは、嘘ではない。夢でもない。幻でも、なかった。私は彼をみすえて、言いきった。
「わたくしが不貞を働いているとお疑いのようですけれど。………証拠は?証言をしたのは、どなた?」
「それをなぜお前に知らせる必要がある?口がすぎるな、ネアモネ。頭を打って全て忘れてしまったか」
「仰ってください。まさか、陛下ともあろうものが証拠もなくそれを事実を決めつけるようなこと……しませんわよね」
「………」
「ねえ、陛下。わたくしたちはよく似ていると思うんです」
黙ってしまった陛下に対し、私は立ち上がった。ふらつくかと思ったけれど、そんなことは無かった。しっかりと自分の足で踏み、彼の元に行く。見た目は、何も変わっていない。私も、陛下も。だけど確かに変わったものがある。
ここはどうやら崖の上らしかった。私が足を滑らせた崖なのだろう。さくさくと草を踏んで彼の前までいく。月光を浴びて、陛下の髪は純銀に見えた。
「例えば。傷つけられたら、相手に報復したく思うところとか」
そうして、私は背伸びをして、陛下の頬に触れた。彼は、動かない。ただ、私を見ている。彼の瞳が、探るように私を見ていた。
陛下の頬を撫でる。白皙の頬に触れる。彼の長いまつ毛が、影を落とす。私は陛下の胸に手を添えてたちながらそっとその頬の輪郭を指先でたどった。
「夫婦は似る、とよく言いますけれど」
そのままつぅ、と顎まで指先を落としてから。
私は手を振りあげた。
パシッ………という軽い音が夜闇に響く。彼はよけなかった。叩いた時に爪で引っ掻いてしまったのだろう。彼の頬から一筋の赤が滲んだ。
「っ、」
「こんなところ、似ても嬉しくありませんわね」
そう言って、笑みを描いた。
陛下は、何も言わない。どうして何も言わないの。どうして、何も答えてくれないの。
私は彼から離れると、にっこり笑って答えた。
「本当は、こんなのじゃ全く足りません。だけど、いいです。その代わり」
離縁してください。
そうはっきり伝える。彼は、まっすぐ私を見ていた。
「よろしいでしょう?これが、あなたが招いた結果です」
こうなってしまったのは、私にも責任がある。さすがに全て私が悪いとは思わない。もちろん彼だって悪いと思っているから。だけど、ここまで拗れた原因が私の不貞………と彼が思っているのなら、言わなくてならない。
思ったより心は落ち着いていた。むしろ、早く言わなければと急いでいる。ゆっくり、落ち着いて言葉を繰り出す。その時、手に何かを持っているのに気がついた。
………何かしら?
そう思って、手を開いてみてみれば、それは夜闇でもはっきり分かるほどに煌めく、髪飾りだった。
ふ、と笑みをこぼす。そして、顔を上げた。
「私は、あなたのことが好きすぎるあまり、周りが見えてませんでした。それは、王太子妃、ならびに王妃としてありえない行為。それは深くお詫び申し上げます」
「何だと………?」
「ですが、陛下。あなたも、わたくしのことを信じ、信頼しなかった。あなたはまるで自分だけが被害者かのような顔をしてますけれど………心身ともに暴力を受けたわたくしのことをお忘れですか?それとも、自分で行ったことは、忘れられてる?」
言えば、陛下は私をきつく睨んできた。あれは、嘘ではない。夢でもない。幻でも、なかった。私は彼をみすえて、言いきった。
「わたくしが不貞を働いているとお疑いのようですけれど。………証拠は?証言をしたのは、どなた?」
「それをなぜお前に知らせる必要がある?口がすぎるな、ネアモネ。頭を打って全て忘れてしまったか」
「仰ってください。まさか、陛下ともあろうものが証拠もなくそれを事実を決めつけるようなこと……しませんわよね」
「………」
「ねえ、陛下。わたくしたちはよく似ていると思うんです」
黙ってしまった陛下に対し、私は立ち上がった。ふらつくかと思ったけれど、そんなことは無かった。しっかりと自分の足で踏み、彼の元に行く。見た目は、何も変わっていない。私も、陛下も。だけど確かに変わったものがある。
ここはどうやら崖の上らしかった。私が足を滑らせた崖なのだろう。さくさくと草を踏んで彼の前までいく。月光を浴びて、陛下の髪は純銀に見えた。
「例えば。傷つけられたら、相手に報復したく思うところとか」
そうして、私は背伸びをして、陛下の頬に触れた。彼は、動かない。ただ、私を見ている。彼の瞳が、探るように私を見ていた。
陛下の頬を撫でる。白皙の頬に触れる。彼の長いまつ毛が、影を落とす。私は陛下の胸に手を添えてたちながらそっとその頬の輪郭を指先でたどった。
「夫婦は似る、とよく言いますけれど」
そのままつぅ、と顎まで指先を落としてから。
私は手を振りあげた。
パシッ………という軽い音が夜闇に響く。彼はよけなかった。叩いた時に爪で引っ掻いてしまったのだろう。彼の頬から一筋の赤が滲んだ。
「っ、」
「こんなところ、似ても嬉しくありませんわね」
そう言って、笑みを描いた。
陛下は、何も言わない。どうして何も言わないの。どうして、何も答えてくれないの。
私は彼から離れると、にっこり笑って答えた。
「本当は、こんなのじゃ全く足りません。だけど、いいです。その代わり」
離縁してください。
そうはっきり伝える。彼は、まっすぐ私を見ていた。
「よろしいでしょう?これが、あなたが招いた結果です」
70
お気に入りに追加
1,487
あなたにおすすめの小説

年に一度の旦那様
五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして…
しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…

恋した殿下、あなたに捨てられることにします〜魔力を失ったのに、なかなか婚約解消にいきません〜
百門一新
恋愛
魔力量、国内第二位で王子様の婚約者になった私。けれど、恋をしたその人は、魔法を使う才能もなく幼い頃に大怪我をした私を認めておらず、――そして結婚できる年齢になった私を、運命はあざ笑うかのように、彼に相応しい可愛い伯爵令嬢を寄こした。想うことにも疲れ果てた私は、彼への想いを捨て、彼のいない国に嫁ぐべく。だから、この魔力を捨てます――。
※「小説家になろう」、「カクヨム」でも掲載
(完結)婚約破棄から始まる真実の愛
青空一夏
恋愛
私は、幼い頃からの婚約者の公爵様から、『つまらない女性なのは罪だ。妹のアリッサ王女と婚約する』と言われた。私は、そんなにつまらない人間なのだろうか?お父様もお母様も、砂糖菓子のようなかわいい雰囲気のアリッサだけをかわいがる。
女王であったお婆さまのお気に入りだった私は、一年前にお婆さまが亡くなってから虐げられる日々をおくっていた。婚約者を奪われ、妹の代わりに隣国の老王に嫁がされる私はどうなってしまうの?
美しく聡明な王女が、両親や妹に酷い仕打ちを受けながらも、結局は一番幸せになっているという内容になる(予定です)

誤解なんですが。~とある婚約破棄の場で~
舘野寧依
恋愛
「王太子デニス・ハイランダーは、罪人メリッサ・モスカートとの婚約を破棄し、新たにキャロルと婚約する!」
わたくしはメリッサ、ここマーベリン王国の未来の王妃と目されている者です。
ところが、この国の貴族どころか、各国のお偉方が招待された立太式にて、馬鹿四人と見たこともない少女がとんでもないことをやらかしてくれました。
驚きすぎて声も出ないか? はい、本当にびっくりしました。あなた達が馬鹿すぎて。
※話自体は三人称で進みます。

【完結】身分に見合う振る舞いをしていただけですが…ではもう止めますからどうか平穏に暮らさせて下さい。
まりぃべる
恋愛
私は公爵令嬢。
この国の高位貴族であるのだから身分に相応しい振る舞いをしないとね。
ちゃんと立場を理解できていない人には、私が教えて差し上げませんと。
え?口うるさい?婚約破棄!?
そうですか…では私は修道院に行って皆様から離れますからどうぞお幸せに。
☆
あくまでもまりぃべるの世界観です。王道のお話がお好みの方は、合わないかと思われますので、そこのところ理解いただき読んでいただけると幸いです。
☆★
全21話です。
出来上がってますので随時更新していきます。
途中、区切れず長い話もあってすみません。
読んで下さるとうれしいです。

愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。


【コミカライズ・取り下げ予定】アマレッタの第二の人生
ごろごろみかん。
恋愛
『僕らは、恋をするんだ。お互いに』
彼がそう言ったから。
アマレッタは彼に恋をした。厳しい王太子妃教育にも耐え、誰もが認める妃になろうと励んだ。
だけどある日、婚約者に呼び出されて言われた言葉は、彼女の想像を裏切るものだった。
「きみは第二妃となって、エミリアを支えてやって欲しい」
その瞬間、アマレッタは思い出した。
この世界が、恋愛小説の世界であること。
そこで彼女は、悪役として処刑されてしまうこと──。
アマレッタの恋心を、彼は利用しようと言うのだ。誰からの理解も得られず、深い裏切りを受けた彼女は、国を出ることにした。
一方、彼女が去った後。国は、緩やかに破滅の道を辿ることになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる