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そしてはじまりに
しおりを挟むはっと意識が浮上する。
見れば、そこは外のようだった。風が冷たい。ここは………。そう思って、首を動かそうとすると、影が目に入った。
「ーーー」
殿下、いや、違う。陛下、だ。
記憶の彼よりも成長した彼が、私に背を向けていた。
ーーーもしかして、ここは、前の世界。私がいた世界。
ノアに言われて分かってはいたものの、理解が追いつかなかった。納得するのと、理解するのとでは全く違う。私が身動ぎした音で気がついたのだろう。陛下が振り返った。
「気がついたか」
彼が無機質な声で問いかける。
ーーー心配だった。
あの目を見て、また私は恐慌してしまうのではないか、と。怯えて、泣いて、喚いて、それしか出来なくなってしまうのではないか。そう案じた。だけど、それは杞憂だった。
目が合った。陛下は、私を見た。水晶のような瞳は夜のせいで色が濃い。
その瞳は、やはり冷たくて、暗い。まるでこの世の負の感情を全て閉じ込めたかのようだった。
ーーーまるで、自分が被害者かのような目をするのね
私は起き上がり、陛下と視線を交わす。不思議だった。あんなに怖くて、怖くて仕方なかった陛下が。今はそんなに怖くない。むしろ、理不尽な苛立ちを覚えているほどだった。
「………どうしてここに」
思ったよりも平坦な声が出た。
陛下は私を見ると、視線を逸らした。そして、無機質に告げた。
「お前のために来たと思ったか」
「じゃあ違うんですか」
いつもであれば、その言葉に傷ついて、黙り込んでいた。だけど私が初めてーーー。この世界では初めて反論した。そのことに彼は驚いたようだった。そして、苦々しげに告げる。苦渋を煮詰めたような顔。
「頭でもうったか。いつ、誰がそのような物言いを許した。身の程を考えろ」
「そうですね………頭を打って、夢を見ました」
「何………?」
「陛下。私は、陛下に謝らなくてはなりません」
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