90 / 105
答え合わせ
しおりを挟む「さーて、どうしよっか。もう、この世界でネアちゃんが知らなきゃいけないことはないと思うよ。戻るのは早い方がいい」
「…………いや、嫌よ、そんなの」
また、あの世界に戻る。起きたら、デルセンがいて、陛下がいる?そして、今度こそ私は殺されるの。殺されるためだけにあの世界に戻るの?なら、戻りたくない。デルセンはどうして私にこんな魔法をかけたのだろう。私に後悔させるため?私も愚かだったと、そう教えるために?
混乱した私の頭を、ノアが優しく撫でる。その暖かい手つきがじんわりと伝わる。このまま、ここにいたい。けれど、それは叶わないと言う。
「ーーーノア」
「ん?」
「私、あなたを恨むわ」
「うっわ、怖い」
「それで、ずっと忘れないんだから。ーーー次は、私からあなたを見つけ出す。ねえ、ノア。あなた、そろそろフルネームを教えてくれてもいいんじゃない?」
言うと、ノアは少し考えるようにしてから、答えた。楽しげに、目を細める。
「ノア。ノア・ディアルセイ。それが、俺の本名」
「ディアル………セイ………?」
ノアの言葉に、思わず息を飲んだ。ノアは私の頬を撫でると、笑う。
「そ。殿下とは兄弟ってところかな。俺の母親はガーネット妃だよ」
「ーーー」
ついさっきだ。ついさっき、私は殿下の口から元王妃の不貞を聞かされた。まさか、ノアがーーー。ノアが、その子供、だなんて。
「殿下は行動が早いねぇ。王妃の不貞を盾にとって強請ろうとした乳母は、連絡がつかなくなったよ」
「…………」
「んー………そうだな、ちなみに。もっと面白いことを教えてあげようか」
ノアは私から離れると、フードを被り直した。それを何となく見ていると、ノアがこちらを見る。紫の中に浮かぶ黄金の瞳と目が合った。
「俺の名前は、陛下から貰ってるんだよ」
「え……?」
その時、遠くから声が聞こえてきた。どうやら衛兵らしい。戻ってこない私とフィフを探しに来たのかもしれない。遠くから足音が聞こえると、ノアは問答無用に私の手を引っ張った。
「きゃあっ………」
「じゃ、ネアちゃん。また会おうね。違う世界で、僕を探しに来てよ」
「ちょっと、ノア………!?」
「恨むなら僕を恨んで!この世界できみがやり残したことは、もうない。おめでとう!」
そう言って、ノアは私の目を手でおおった。何も見えなくなる。ちょっと待って。もしかして、今?いま、私を元の世界に戻すつもり………!?待って、私まだ、リリアベルに話したいことが。ネイヴァーさんにも、挨拶がしたかった。そう言いたかったのに、声が出なかった。いや、声は出たのかもしれない。だけどその時には既に水の中にいるような感覚だった。
ーーーだめだよ、挨拶なんてしたら、世界の調和が乱れるから
それだけが、最後に頭の中に響いた。
とぷん、と水の中に溶け込むように。私の意識は落ちていって、落ちていって。全てが暗闇に塗りつぶされていった。
35
お気に入りに追加
1,403
あなたにおすすめの小説
舞台装置は壊れました。
ひづき
恋愛
公爵令嬢は予定通り婚約者から破棄を言い渡された。
婚約者の隣に平民上がりの聖女がいることも予定通り。
『お前は未来の国王と王妃を舞台に押し上げるための装置に過ぎん。それをゆめゆめ忘れるな』
全てはセイレーンの父と王妃の書いた台本の筋書き通り───
※一部過激な単語や設定があるため、R15(保険)とさせて頂きます
2020/10/30
お気に入り登録者数50超え、ありがとうございます(((o(*゚▽゚*)o)))
2020/11/08
舞台装置は壊れました。の続編に当たる『不確定要素は壊れました。』を公開したので、そちらも宜しくお願いします。
年に一度の旦那様
五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして…
しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…
「だから結婚は君としただろう?」
イチイ アキラ
恋愛
ホンス伯爵家にはプリシラとリリアラという二人の娘がいた。
黒髪に茶色の瞳の地味なプリシラと、金髪で明るい色彩なリリアラ。両親は妹のリリアラを贔屓していた。
救いは、祖父母伯爵は孫をどちらも愛していたこと。大事にしていた…のに。
プリシラは幼い頃より互いに慕い合うアンドリューと結婚し、ホンス伯爵家を継ぐことになっていた。
それを。
あと一ヶ月後には結婚式を行うことになっていたある夜。
アンドリューの寝台に一糸まとわぬリリアラの姿があった。リリアラは、彼女も慕っていたアンドリューとプリシラが結婚するのが気に入らなかったのだ。自分は格下の子爵家に嫁がねばならないのに、姉は美しいアンドリューと結婚して伯爵家も手に入れるだなんて。
…そうして。リリアラは見事に伯爵家もアンドリューも手に入れた。
けれどアンドリューは改めての初夜の夜に告げる。
「君を愛することはない」
と。
わがまま妹に寝取られた物語ですが、寝取られた男性がそのまま流されないお話。そんなことしたら幸せになれるはずがないお話。
くだらない毎日に終止符を
ごろごろみかん。
恋愛
公爵令嬢フランチェスカ・ヴィヴィアナは既に何回目かの婚約破棄騒動に挑んでいた。この流れは既に知っているものである。なぜなら、フランチェスカは何度も婚約破棄を繰り返しているからである。フランチェスカから婚約破棄しても、王太子であるユーリスから婚約破棄をされてもこのループは止まらない。
そんな中、フランチェスカが選んだのは『婚約を継続する』というものであった。
ループから抜け出したフランチェスは代わり映えのない婚姻生活を送る。そんな中、ある日フランチェスカは拾い物をする。それは、路地裏で倒れていた金髪の少年でーーー
旦那様、私は全てを知っているのですよ?
やぎや
恋愛
私の愛しい旦那様が、一緒にお茶をしようと誘ってくださいました。
普段食事も一緒にしないような仲ですのに、珍しいこと。
私はそれに応じました。
テラスへと行き、旦那様が引いてくださった椅子に座って、ティーセットを誰かが持ってきてくれるのを待ちました。
旦那がお話しするのは、日常のたわいもないこと。
………でも、旦那様? 脂汗をかいていましてよ……?
それに、可笑しな表情をしていらっしゃるわ。
私は侍女がティーセットを運んできた時、なぜ旦那様が可笑しな様子なのか、全てに気がつきました。
その侍女は、私が嫁入りする際についてきてもらった侍女。
ーーー旦那様と恋仲だと、噂されている、私の専属侍女。
旦那様はいつも菓子に手を付けませんので、大方私の好きな甘い菓子に毒でも入ってあるのでしょう。
…………それほどまでに、この子に入れ込んでいるのね。
馬鹿な旦那様。
でも、もう、いいわ……。
私は旦那様を愛しているから、騙されてあげる。
そうして私は菓子を口に入れた。
R15は保険です。
小説家になろう様にも投稿しております。
真実の愛に婚約破棄を叫ぶ王太子より更に凄い事を言い出した真実の愛の相手
ラララキヲ
ファンタジー
卒業式が終わると突然王太子が婚約破棄を叫んだ。
反論する婚約者の侯爵令嬢。
そんな侯爵令嬢から王太子を守ろうと、自分が悪いと言い出す王太子の真実の愛のお相手の男爵令嬢は、さらにとんでもない事を口にする。
そこへ………
◇テンプレ婚約破棄モノ。
◇ふんわり世界観。
◇なろうにも上げてます。
【完結】旦那様、わたくし家出します。
さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。
溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。
名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。
名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。
登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*)
第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる