王妃の鑑

ごろごろみかん。

文字の大きさ
上 下
89 / 105

パラレルワールド(2)

しおりを挟む
「あ、あの、ノア」

「ん?」

「あの、フィフが………」

「ああ、そこの剣士ちゃん?いいんじゃない、別に。ほっておいて。自業自得でしょ」

そう言うと、ノアは既に興味を失ったように手元の髪飾りを見ていた。あっさり言ってしまうノアに 少し怖くなる。確かに私を殺そうとしてきた相手だ。だけど、それでも。助けられる人を見殺しにするのは、気分が悪い。
そう思っていたのが顔に出ていたのか。ノアは顔を上げて私を見ると、困った子を見る顔になった。

「………んー、仕方ないな。大サービスだよ」

そう言って、ノアはまた手を軽く振る。淡い黄色い光が、フィフを包んだ。

「あれは………」

「ま、そのうち意識は戻るでしょ。あとは王宮魔術師にでも見てもらえばいいんじゃない?」

そう言って、ノアは「よいしょっ」と言いながら立ち上がった。私もそれにつられて立ち上がる。久しぶりにあったノアは以前よりも大人っぽくなっていた。あれから八年がたっている。ノアは今、二十四歳なのだろう。青年独特のあどけなさが消え、大人の色気が垣間見える。あの時から軟派そうな男だとは思っていたが、今は昔以上だ。
チャラそうで、遊び人、という言葉が今のノアにはピッタリだった。ノアはぱんぱん、と軽く服を叩くと私を見た。

「時を戻すなんてそんなこと、出来ると思う?」

「それ、は」

でも、じゃあ。それなら、これはなんだと言うの。今まで見てきたものは何。それとも、未来で起きると思っていたーーー、私が殺された未来こそが幻想だというのか。
足元がおぼつかなくて、震えてくる。ノアは私の目線に合わせて腰を屈ませると、視線を合わせてきた。未だに、ノアとの距離は近い。きっと私のことを妹か何かと思っているのだろう。

「ここは、きみの過去だよ」

「………?」

「あ。はは、今何言ってんだこいつ、みたいな顔したでしょ。わかるよ、俺もさぁ説明が下手なんだよね。うーん、なんて言えばいいかなぁ」

ノアは一人で話すと、そのまま上を見た。秋も深まった今、空気は冷たい。この感覚も、全て、嘘?ここは、なんなの。どういうことなの。私は早く知りたくてノアの服の裾を掴んだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

年に一度の旦那様

五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして… しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…

恋した殿下、あなたに捨てられることにします〜魔力を失ったのに、なかなか婚約解消にいきません〜

百門一新
恋愛
魔力量、国内第二位で王子様の婚約者になった私。けれど、恋をしたその人は、魔法を使う才能もなく幼い頃に大怪我をした私を認めておらず、――そして結婚できる年齢になった私を、運命はあざ笑うかのように、彼に相応しい可愛い伯爵令嬢を寄こした。想うことにも疲れ果てた私は、彼への想いを捨て、彼のいない国に嫁ぐべく。だから、この魔力を捨てます――。 ※「小説家になろう」、「カクヨム」でも掲載

オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではございますが~

五十嵐
恋愛
未婚、アラフォーの薫が転移した先は全然悪役令嬢ではない悪役侯爵令嬢、スカーレットの中。しかも婚約破棄真っ只中。 そんな薫の役割は、婚約破棄後のスカーレットになり人生を謳歌することだった。ついでに、諸事情でまともに恋愛をしてこれなかった分を取り返すこと。 けれど、新しい世界の毎日が楽しくて、恋愛に割く時間がなくて…。 *話の中に出て来る様々なことは無駄に長いお一人様生活をしてきた主人公の個人的な意見、個人的な経験です。

【完結】身分に見合う振る舞いをしていただけですが…ではもう止めますからどうか平穏に暮らさせて下さい。

まりぃべる
恋愛
私は公爵令嬢。 この国の高位貴族であるのだから身分に相応しい振る舞いをしないとね。 ちゃんと立場を理解できていない人には、私が教えて差し上げませんと。 え?口うるさい?婚約破棄!? そうですか…では私は修道院に行って皆様から離れますからどうぞお幸せに。 ☆ あくまでもまりぃべるの世界観です。王道のお話がお好みの方は、合わないかと思われますので、そこのところ理解いただき読んでいただけると幸いです。 ☆★ 全21話です。 出来上がってますので随時更新していきます。 途中、区切れず長い話もあってすみません。 読んで下さるとうれしいです。

【コミカライズ・取り下げ予定】アマレッタの第二の人生

ごろごろみかん。
恋愛
『僕らは、恋をするんだ。お互いに』 彼がそう言ったから。 アマレッタは彼に恋をした。厳しい王太子妃教育にも耐え、誰もが認める妃になろうと励んだ。 だけどある日、婚約者に呼び出されて言われた言葉は、彼女の想像を裏切るものだった。 「きみは第二妃となって、エミリアを支えてやって欲しい」 その瞬間、アマレッタは思い出した。 この世界が、恋愛小説の世界であること。 そこで彼女は、悪役として処刑されてしまうこと──。 アマレッタの恋心を、彼は利用しようと言うのだ。誰からの理解も得られず、深い裏切りを受けた彼女は、国を出ることにした。 一方、彼女が去った後。国は、緩やかに破滅の道を辿ることになる。

誤解なんですが。~とある婚約破棄の場で~

舘野寧依
恋愛
「王太子デニス・ハイランダーは、罪人メリッサ・モスカートとの婚約を破棄し、新たにキャロルと婚約する!」 わたくしはメリッサ、ここマーベリン王国の未来の王妃と目されている者です。 ところが、この国の貴族どころか、各国のお偉方が招待された立太式にて、馬鹿四人と見たこともない少女がとんでもないことをやらかしてくれました。 驚きすぎて声も出ないか? はい、本当にびっくりしました。あなた達が馬鹿すぎて。 ※話自体は三人称で進みます。

【完結】旦那様、わたくし家出します。

さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。 溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。 名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。 名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。 登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*) 第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

処理中です...