王妃の鑑

ごろごろみかん。

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時めぐる(5)

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後ろで息を飲む音がする。殿下の目が大きく見開かれた。私は今、言ってはならないことを言ってしまった。でも、後悔などしていない。
私は殿下の胸元の服を離すと、そのまま礼をとった。

「それでは、ごきげんよう。殿下。………わたくしと過ごした十年の間に、信頼関係を築けなかったわたくしの、落ち度でございますね」

十年、十年だ。
今回ばかりは、殿下への恋情以外に、人として彼を見てきたつもりだった。それでも、殿下は私を疑った。信じきってくれなかった。それが、事実だ。

「ちょっ………!待て、ネア!」

殿下の言葉を無視して執務室を後にする。こんな不敬な行為をしたのは初めてだった。
私を追いかけようとしたのだろう。すぐにフィフに「殿下、緊急の案件です!」という鋭い声が響き、舌打ちが聞こえる。

そのまま帰ろうかと思ったが、帰る直前に気がついた。

ーーー髪飾りがないのだ。

やだ………。どこかで落とした?
思い出す。だけど髪留めが落ちるくらい激しい動きをしたのは、執務室以外ない。恐らくあそこで落としたのだろう。もう一度戻るのはものすごく嫌だった。今、殿下と会えば何を言うかわからない。
だけど、あの髪飾り。可愛くて好きなのよね………。どこで買ったかは覚えていないけれど、夕焼けのような色合い美しい。ひし形の形に削られた宝石は、見ようによっては黄色にも見えるし、橙色にもみえた。失うのは惜しい。
………仕方ない。少しだけ、探しましょう。もしかしたら廊下に落ちてるかもしれないし………。そう思って、私は執務室までの道をもどることにした。執務室の中には絶対に入らない。そう決めて。

結局、髪飾りは見つからなかった。
執務室の前までやってきたが、赤い絨毯の上には髪飾りどころかもの一つ落ちていない。諦めて帰るしかなさそうね………。
そう思って踵を返そうとした時。執務室の中から声が聞こえた。
殿下の声だ。まずい、ここにいたら鉢合わせしてしまう………。そう思って早足で動こうとした時。
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