王妃の鑑

ごろごろみかん。

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時めぐる(3)

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「………僕も、そうだと思うよ」

「それなら!」

それなら、どうして殿下は私を裏切ったのですかーーー。
それを、言えてしまえればよかった。どうして、私ではなくアデライードを選んだのか。ううん、もうこの際それはどうでもいい。アデライードのことが好きなら、なぜ彼女を妃に据えなかったのか。立場が弱い?けれど彼が玉座につけば、彼が法律だ。この国は王政なのだから。重臣にはあまりよく見られないだろうが、私というお飾りの妃を据えるよりは遥かにましだったはず。なのになぜ、殿下はわざわざ私をお飾りにしたてあげた?
そんなに私が嫌いだったの?

「それなら……………」

喉が引きつく。私は、何を言いたいのだろう。今の殿下に何を言ったところで、分かってもらえるはずなどないのに。でも、どうしてだろう。言葉は続くし、それは音になった。

「………私を…………」

私だけを、見ていて欲しかった。それは、傲慢?ワガママ?いけないこと?殿下は、王族であり、国王陛下になるお方。私が独占するのは許されないこと?わからない。どんどん分からなくなっていく。思考の渦に、巻き込まれそう。

「私を…………信じてくださいますか」

自分が何を言っているかわからなかった。ぐるぐるぐるぐる考えた言葉が混ざって、その一文に収まる。殿下の顔を見れない。だけど、この言葉は確かに殿下に届いたはず。もういっそ、言ってしまえばいいのだろうか。未来、あなたは私を殺すと。あなたは私を酷く憎み、そして別の女を抱いたと。そう言えばいいのだろうか。
俯いていると、殿下の言葉が耳に届いた。優しい声だった。

「………信じたいと思ってるよ、ネアモネ」
その声が聞こえたと思いきや、とん、と軽い足音がする。見れば、殿下がこちらに向かって歩いてきていた。難しそうな顔をしている。信じたいと思っている?それは、完全には私を信じられないから?どうして?信頼が足りない?何がいけなかった?それとも、信頼するにたる女ではなかったということなのか、私が。

「だから、聞かせて。昨日の昼、きみは何をしていた?」

だから、突然聞かれた言葉に、意味がわからなかったのだ。

「…………え、」

「僕も、疑いたくないけれど。きみが昨日の昼男と密会していたという報告が届いた。本当は当たり障りなく探りを入れようと思っていたんだけど、できるだけ僕は、」

「してません!」

気がついたら声を上げていた。誰、そんな嘘の報告をしたのは。昨日私はリリアベルと城下に降りていた。図書館に行くためだ。そもそも私はリリアベルといたし、外出中だったし、男と密会をする時間なんてない。
信じられない思いで告げると、殿下がほ、と息を吐いた。

「……そうだよね。……だとすると、」

殿下はそこからまたなにか考え込むように目をふせた。私が、密会?男と?
信じられない。信じられない。目の前がチカチカする。白と黒の世界が乱立する。頭が痛かった。

ーーーどうして、どうしてまた、こうなってしまうの

悔しい、と感じた。ぐっと握った手の甲に爪が刺さる。どうして。どうしてなの。今度こそ私は変えたいと思ったのに。以前の人生をなぞるだけは、意味が無い。………意味が無い!

「殿下!わたくしはっ………!」

その時。
とんとん、と扉が叩かれた。その音にハッとして言葉を止める。部屋の中に沈黙が降り立つ。

「殿下、フィフシアです。急遽お伝えしたいことが」

先程退室した女剣士らしい。
私は息をとめ、歯噛みした。こんなところで躓きたくない。殿下はちらりと私を見て、フィフーーー女性剣士に声をかけた。

「いいよ、入って。………ネア、変なことを聞いてごめん。また後で連絡するから」
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