王妃の鑑

ごろごろみかん。

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時は流れ、私は十二歳になった。殿下が十五の歳だ。殿下は今年、成人する。この頃になると陛下の体調はやはりというか、かなり悪くなっていた。
ノアはまた会いに来ると言ったくせにあれから一度も来なかった。一体、何なのかしら………。

あと、三年。あと三年で、時が追いつく。その時私はどうしているのだろうか。殿下との関係は以前とは全く持って違うものになった。 
婚約者という立ち位置は変わらないけれど、殿下は以前よりも笑うことが増えたと思う。そして、それは今まで見ます笑みのどれよりも素に近い気がした。

「そう言えば、来週だったね」

殿下がティーカップをソーサーに置きながら言う。私はそれを聞きながら、何とか言葉を選んだ。

「………楽団が来るのでしたね」

その楽団にはアデライードもいるだろう。ここからが、運命の分かれ道だ。何とか絞り出した声音がかすれていたことに、気づかれなかっただろうか。
殿下は紅茶に浮かんだ自分を眺めながら口端だけで笑みを浮かべた。

「何か不安?」

「え?………何が、でしょう?」

「ううん。ネアが、何となく不安そうにしていたから」

ーーー気づかれていたのか。

だけど、こういった所は前から変わらないと思う。殿下は人の機微に聰い。私が悲しんでいるとき、私が喜んでいるとき。すぐにきづいたのはいつだって殿下だった。
誤魔化そう。そう思ったけれど、アイさんの言葉が脳内に浮かび上がる。

ーーー気になったことは、とことん突き詰めた方がいいわよ。思ったことは言いなさい。

思ったことは、言う………。だけどこの場合どこまで言えばいいのか。私は悩みながらも言葉を探す。そして口を開いた。

「………嫌な予感がして」

それは、私のバッドエンド。私が死ぬことになる、決定的な幕が上がりそうな気がして、怖い。結局私は誤魔化さずに、嘘も言わなかった。紅茶を置きながら言うと、殿下の視線を感じて顔を上げる。
風がふわりと漂い、殿下の白金の髪がさらさらと揺れる。水晶のような瞳と目が合った。

「嫌な予感?」

「なんというのでしょう、こう………虫の知らせ……と申しますか」

「うん………そうだね、それなら僕も分かる気がする」

殿下はそう言うと上を見た。今日はテラスでのお茶会だった。青空がひろがっていて、気持ちのいい昼下がり。

「でも、ネアが不安なのはそれだけ?」
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