王妃の鑑

ノア

「ネアモネ様？どうかなさいましたか？」

「………ううん。何でもないの」

言って、笑みを乗せる。
私はきっと過去に戻ってよかったと思う。悔しさ、悲しさ………それらが積み重なって動けなかった私。視界が狭くて、世界に絶望することしか考えられなかった。きっと今の方が、前よりも有意義に………ううん、私のために、生きている。
そっと手で心臓を抑える。………大丈夫。私はまだ、生きている。
それから数日をかけてデルモント領に入った。ヨエンの谷はもう少しだ。そして、その日の夕方。私たちはヨエンの谷へとたどり着いた。
そこで私とリリアベルは単独行動を開始し、護衛にも花を探させることにした。リリアベルはこう見えて剣がたつ。難しくない魔法であれば魔術も使えるので、護衛も兼任できるのだ。

「うわぁ、暗くて深い。何か出そうですね」

「………そうね」

リリアベルには今回の目的をもちろん伝えてある。私とリリアベルは迷わず奥の方に入っていった。森林に隠されているけれど、ネイヴァーさんの話しだとこの奥に魔女の家があるはず。
その時、草むらの方からがさっ、という音が響いた。リリアベルがすかさず臨戦態勢になる。だけど、私はそれが何かあたりがついた。リリアベルに声をかけるよりも早く、それが姿を現す。

「やっ、思ったより早かったね」

「………ノア。本当に来ていたのね」

「え！？あの、美青年！」

私の言葉に、ほぼぶつかる形でリリアベルが言う。言ってからはっと口を抑えてノアを凝視する。ノアは相変わらずぶかっとしたローブを着ていた。細身で中性的は顔立ちをしているから、こうしていたら女性に見えなくもない。ただし、口調は全く持って女性のものではないけれど。

「えっえっ？どういうことですか？ネアモネ様？」

「……ごめんなさい。伝え忘れていたわ。ノアと、ここで落ち合う約束をしていたの」