王妃の鑑

ごろごろみかん。

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美青年

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「確かに興味はあるけどーーーそうじゃなくて。なんて言うのかな。魔術師のカン?とにかく、迷惑はかけないから連れて行ってよ」

「こんな美青年侍らせる機会なんてなかなかないし、いいじゃぁないか。こき使ってやんな」

「………」

美青年はお呼びじゃないし、私はヨエンの谷に遊びに行く訳でもない。
それよりーーー恐らく。きっと彼らは私の本当の年齢を知っている気がした。とてもじゃないが八歳児に対する話し方ではない気がする。
どこまで彼らは知っているのだろう。私が顔を上げたと同時、ほほ至近距離に青年の顔があって思わず飛び上がった。ち、近い………!

「な、なんですか………!」

「いやぁ、不思議だな~?と思ってね。こんなこともあるんだねぇ………」

青年は私の顔をまじまじ見ていたが、やがてにこらと笑った。顔が整っているので、それだけで様になる。絹糸のような銀髪がさらりと揺れる。

「じゃあ、ヨエンの旅地のお供として、よろしく。お嬢さん。今更だけど俺の名前はノア。ノアって呼んでね」

………勝手についてくることになっているし。
こんな緩くて大丈夫なのかしら。思わずネイヴァーさんを見れば、彼女はぐっと親指を立てていた。

「大丈夫、こいつの腕はあたしが保証する」

そういうことではないのだけど。
まあ………彼女がそういうのなら、大丈夫かしら………。だけど彼、とても腕がたつようには見えないわ。
背は高いけれど細身だし、殴られたら飛ばされそう。そういえば………さっき、彼は魔術師として、って言っていた。

「あなた………魔術師なの?」

「ん?うん、そうだよ?だから、何となーくきみの状況が分かっちゃう」

至近距離なので、彼ーーーノアの瞳がよく見える。紫だと思っていた瞳の中には、ダイヤのような形をした金色が浮かんでいる。不思議な虹彩だわ………。思わずその目に魅入っていると、ノアが小さく笑った。

「はい。じゃあ俺はきみについていくから。ああ、そうだ。改めて名前をおしえてくれるかな」

「え………」

「ああ、もちろん偽名じゃなくて。本名。きみには高貴な名前があるでしょう?」

………やっぱり知られていた。
私はやや警戒しながらノアを見る。ちなみに、今日はリリアベルはつれてきていない。リリアベルは今日休みだ。その日を狙って、薬屋にきた。

「………あなたは、いえ。あなたがたはどこまで知っているの?」

まさか私がループして、過去に戻ってきていることも………知っているの?そう思って聞くと、ノアがどこか訳知り顔で微笑んだ。紫と金のコントラスがキラキラしていて、本当に呑まれそう。
見ていると、つん、と鼻の頭に人差し指で触れられた。
………どうでもいいけど、彼、距離が近すぎないかしら………。さりげなく後ろに引いて距離をとる。ノアは気にしてないようだった。

「んー………なんて言うのかな。きみの“感覚”は違うんだよねぇ。これは、魔術師なら……あ、一部の魔術師なら、わかると思うよ。俺もすぐ気づいたし」

魔術師なら、わかる………?どういう意味かしら……。ノアを見ると、彼は「よいっしょ」と声をかけて立ち上がった。そして私を見る。不思議な虹彩の瞳がキラキラと光る。
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