王妃の鑑

ごろごろみかん。

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魔女

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私は少し悩んだ後、言った。

『今年は、無理………。来年、来年の夏なら………きっと行けるわ。来年の夏、また来ます』

『そうかい。待ってるよ。今度は間違えないようにな』

彼女の言葉に思わず息を飲む。ネイヴァーさんを見れば、彼女は葉巻タバコを口に含んでいるところだった。楽しそうな瞳、上がった口角。やはり、彼女は全て知っているーーー。
生唾を飲み込んだ。ここでくい下がれば、彼女は教えてくれるだろうか。考えたけれど、結局大人しく引き下がることにした。
どうやら彼女はこれ以上の情報は与えてくれなさそうだ。

『………そうですね。私は、生きたいので』

『じゃ、視界を広くしないとなぁ。来年の夏、また待ってるよ。お嬢さん』

ネイヴァーさんがそう言うと同時に、控えめに店の扉が開いた。見れば、リリアベルだった。どうやら心配して見に来てくれたらしい。

『ネル、そろそろ時間よ………?』

見ればもう夕暮れ時。そろそろ帰らないと邸宅のものに気づかれてしまう。

『ありがとう、リリアベル。ではまた来年』

声をかけて、私たちは薬屋を後にした。
ヨエンの谷に行くまでは少なくとも、往復で一週間は必要だ。
さらに魔女も探さなくてはならないとなると、もっと時間は必要だ。公爵令嬢である私は自由に動けない。動けたとしても、数日ーーー、いや、1日かそこらが限界だ。と、のると協力者が必要になる。殿下に、私が死ぬ原因となった彼にお願いするのは嫌だったり、思うところがない訳でもないけれどーーー。
でも私にはあとがない。いま、思うことをしなければ。

私は殿下の顔を見て告げる。以前から思い描いていた文章をそのまま、口にする。

「………ヨエンの谷には世にも珍しい花が咲くと聞きました。わたくし、一度でいいからぜひ見てみたいのです」

私が、わがままを口にするのは前世も含めて、これが初めてだ。
ヨエンの谷には非常に珍しい花が咲く。オーロラのようなそれは、見た目から不思議は草と呼ばれている。世にも珍しい色合いをしていて、かつとても美しいそうだ。冷たく、暗いところでしか咲かない花なので、ヨエンの谷でしか見られない。
私がまっすぐ殿下を見ると、彼は何を考えたのかすっと瞳を細めた。どきりとする。忘れてはいないが殿下は頭がきれる。なんて言ったって王太子なのだから、当然だ。
彼は少し考えた後、私に告げた。

「………それは、今年の誕生日プレゼントに見せて欲しい、ということ?」

意外だった。まさか、殿下が見せてくれようとしたのか。私は思わず真顔になりながら顔を振った。殿下と共に行動など、冗談じゃない。帰って動きにくいし、それでどうやって魔女を探せというのだ。

「違います。わたくし一人で、行きたいのです」

「プレゼントは否定しないんだね」

「ええ、まあ」

プレゼントにねだるのは宝石やドレスではなく、ただの観光をする権利。怪しまれないだろうか。でもまだ八歳だ。そういったものに興味がなくてもおかしくない。
私の発言に、殿下は少し考えたようだったが、やがて笑って答えた。

「………分かった、公爵には僕から伝えておこう。デルモント領の視察も兼ねて、といえば公爵も否定はしないだろう」

「ありがとうございます」
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