王妃の鑑

ごろごろみかん。

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八歳の誕生日

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「わたくしたち、絶望的なまでに………相性が悪かったのかもしれませんね」

ぽつりと、呟く。

「………ん?何か言った?」

ラベンダーの香りを楽しんでいた彼が顔を上げる。どうやら聞こえていなかったらしい。ぽろりとこぼれた本音を飲み込んで、私は笑った。

「なんでもありませんわ」

十歳の、夏の終わりのことだった。私と殿下の関係性は以前のような甘いものではなくなり、どちらかというとパートナーという意味合いの方が強くなっていた。殿下も、深く踏み込んでこない。お互いにどこか一線を引いた状態で、私たちは婚約者としての逢瀬を重ねていた。


×××


部屋の中に入ると、花の香りが鼻腔を刺激した。ついこの日が来た。

「おめでとう、ネアモネ。来ると思ってた」

殿下が微笑んで私の来訪を喜んだ。
あの時と同じ言葉を耳にする。あの日の繰り返しのようで、気が重い。何一つ変わらない執務室。ここで起きたことを、私は忘れていない。

私は今日で八歳になった。私はドレスの裾を持ち上げて殿下に挨拶をした。

「ありがとうございます、殿下」

微笑んで彼を見る。
少しだけ、殿下は身長が伸びたように感じた。………成長期だものね。静かにそう思う。私は彼に促されるままソファに座った。私が着席すると、殿下は部屋の向こうに消えた。そして、手に何かを持って戻ってくる。見なくてもわかる。この誕生日の日だけは、私は忘れることが出来なかったのだから。殿下は………陛下はすっかり忘れているかもしれない。でも、私にとってはとても意味のある日だった。あの日の花は、ドライフラワーにして部屋に飾っていたのだから。きっと、そんなに強く覚えていたのは私だけなのだろうけど。

「ーーー殿下、それは?」

彼が手にした花束を見る。赤い、赤い花。血のようで、少しだけ気分が悪くなる。

「きみの名前の由来はアネモネの花から来てるんだろう?だから、アネモネの花束を君にと思って」

殿下は口元だけで笑うと、私にアネモネの花束を渡してきた。血の色の花束。それを眺めて、私は笑った。

「ありがとうございます、殿下。大切にしますわ」

言うと、殿下は目を細めて笑った。相変わらずの美少年ぶりだが、以前のように胸はそこまで高まらなかった。
猜疑心で満ち溢れている心は、そう簡単に彼に心を許さない。この時点でもう、彼は私のことを嫌っているかもしれない。アデライードとはまだ面識はないはずだけど、果たしてどうなのだろう。

「うん。………誕生日おめでとう、ネアモネ」
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