王妃の鑑

ごろごろみかん。

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理由(2)

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「………ラベンダーです」

「またラベンダー?前にもきみはその話をしていたよね。そんなに好きなの?」

「いえ、私が好きな花ではなく………この花、ラベンダーですよね?とてもいい香り」

ちょうどおりよく、近くに紫色の花が咲いているのが見えた。すぐにラベンダーだと分かる。ラベンダーはわかりやすい花の形をしているから。
私は花壇に屈むと、それに触れた。そして、殿下に断りを入れる。

「このお花、いただいてもよろしいでしょうか?」

殿下のことは、正直まだ怖い。いや、怖い、というよりも恐ろしい。
何を考えているのか分からないから。彼の本当のところは傍若無人であっさりと酷いことができるような人なのだろうか。いつも穏やかに微笑んでいただけに、そのギャップに恐怖を覚えた。殿下は、私と婚姻を結んでから態度がいきなり変わった。今までは普通だったのに。変わってしまったのだ。それがなぜなのか、分からない。だけど、知りたいとも思う。
まだ、今ならやり直しがきく。彼の本当の気持ちを、聞いてみたい。いや、知りたいという思いはあった。
殿下は私の言葉にやや困惑しながらもうなずいた。それを見届けてから、私はラベンダーの茎を手折る。心の中で花にごめんね、と告げながら。そして数本のラベンダーを手に取ると、私は殿下に渡した。彼は怪訝そうに私を見ている。まるで警戒心旺盛の猫のようだ。

「嗅いでみてください。落ち着きます」

「………聞いていい?」

「はい」

「なぜ?それを僕に渡すのかな」

殿下は、困惑しているようだった。私は殿下にラベンダーを渡しながら、あっさり答えた。

「ご無理をしているようでしたので」

「………そうかな」

「顔色、お悪いですよ」

「………ふふ、そっか」

私に顔色の悪さを指摘されたというのに、殿下は笑った。そして、彼は目をふせてラベンダーの匂いを楽しむことにしたようだ。
あの時は、考えが及ばなかったけどーーー。殿下だって十歳の少年だ。陛下が病床について、次の王は自分だと決まっている以上、肩の荷は重かっただろう。それを、私は汲むことができなかった。
あの時の私は恋に溺れる少女そのものだったから。憧れの王子様とのデートが楽しくて仕方なかった。家に帰れば無味な生活が待っている。常に姉と比較され、貶され、人格を否定され。彼といる時だけが、私の救いだった。だけど、殿下にはそれが重かったのかもしれない。
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