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理由
しおりを挟む「………何でもない。変なことを聞いたね、戻ろうか」
「………私は、」
殿下が手を差し伸べる。私はそれを見て、答えた。私が過去に戻った理由は、わからない。だけど、私が自分の意見を言わず、ただ流された結果があの未来なら。気になったことは、思ったことはきちんと話した方がいい………と思う。
今までの私なら黙って、俯いて、それで終わりだった。だけど、それでは意味が無い。それなら私はなんのために過去に戻ったのか。同じ人生を歩むのであれば戻った意味がない。私は同じ人生を歩むために戻ったのではない。
「私は、殿下が考えていることがわかりません」
はっきりと口にしたものの、心臓の音がうるさかった。口調は硬かったし、声も乾いていた。殿下の目が大きく見開かれる。そして、ややあってから彼も答えた。
「………僕は、至って普通のことしか考えてないよ。今は、きみのことだけを考えている」
「それなら………殿下はわたくしのことが、好きですか?」
直球で、聞きすぎたと思う。でも、もう立ち止まれない。しん、とあたりが静まり返る。
少ししてから、殿下が曖昧に笑った。苦笑、にも見える笑い方だった。
「………好き、なのかな。まだ分からない。ネアは?そう聞くきみは、僕のことが好きなの?」
とてもそうには見えないけれど。
そう、殿下が付け加える。
「好き………」
でした。心から、お慕いしておりました。そう、言えたらどんなによかったか。まだ、私の想いは過去にはできない、のだろうか。わからない。自分のことなのに、わからなかった。
「という気持ちが、まだわかりません」
「そうだね。僕も、まだわからないな」
私は七歳で、殿下は十歳。お互い恋心がわからなくても無理はない。私は分かっていて分からないふりをした。殿下は?本当にわからなかったのだろうか。十歳の頃から、彼はなにを考えていたのだろうか。
×××
今日の殿下は様子がおかしかった。
どこか思い詰めたような表情をしているし、顔が暗い。きっと、ほかの人には気づかない誤差。だけどずっと見てきた私にはわかった。今の殿下は、無理をしている。
「そういえば、そろそろ季節の花が咲くね。ネアは花はすき?」
そういいながら庭を歩く殿下は、やはりどこか言葉に気持ちが入っていない。いつもの彼らしくなかった。
以前からこういったことは多かったけれど、今日はいつにも増して酷い。そういえば、ふと思い出す。最近の陛下の具合が悪化していると聞いた。もしかして、それが原因………?
陛下がお体を崩された理由は、王妃様が亡くなったからだと聞いている。唯一の肉親が病床についているとなれば、それは心配にもなるわよね………。私は言葉を選んで、殿下を見た。
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