王妃の鑑

ごろごろみかん。

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魔女の行方

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「………いいえ、ごめんなさい。とつぜん声をかけて。なんでもありませんわ」

なぜ、声をかけたかなんてわからないけれど。でも一つだけ気づいたことがある。ここは過去で、まだ何も起きていない。私にはまだ選択肢が残されているということに、今頃気がついた。


×××

次の日。私とリリアベルはまたしても城下を歩いていた。目的地は決まっている。

「いつ来ても活気に充ちてますねぇ」

リリアベルがあたりを見ながら言う。私もそう思う。そして、私は知らなかった。こんなに人々が活気に充ちているということに。ここにいると、私まで元気にになる。
私たちはこの前のネイヴァーさんの元に行くところだった。
魔女の家に行くかどうかはさておき、彼女の話が聞きたい。彼女は、魔女に会うと決めたら店に来い、と言っていた。きっとほかになにかを知っているのだろう。
リリアベルと彼女が営んでいるという薬屋に向かう途中だった。

ーーードンッ

強い衝撃が私をおそう。
その突然の衝撃に私は耐えることができず、そのまま倒れそうになった。だけどすんでで誰かに支えられる。
誰かとすれ違いざまにぶつかってしまったのだ。

「きゃっ………!」

「っと………ごめんね、小さなお嬢さん。怪我はないかな」

私の体をあっさりと支えてくれたのは、男性らしい。少し高めの落ち着いた声が耳に入る。後ろでリリアベルが焦った声を出す。

「ネル………!」

ちなみにリリアベルには外ではネルと呼んでもらうことにした。ところ構わずネアモネ様と呼ばれては隠しても素性があっさりとわかってしまう。

「ご、ごめんなさい。大丈夫です」

本当のところは鼻を思い切り打ったので、少し痛かった。だけどそれを隠していえば、私よりもずっと高いところから、声が落ちてくる。顔をあげれば、背の高い男性が私を見ていた。

「わあ……。鼻が赤くなってるじゃないか。うーん、本当にごめんね。見えなかったんだ」

それは小さくて、といえことよね。そうよね。私まだ七歳だもの………。平均的な身長だと思うけれど、七歳児なのだ。背の高い部類に入るであろう彼の視界に入らなかったのも何らおかしくない。私は笑みを浮かべて取り繕った。

「だ、大丈夫です。それより、あの本当にもう大丈夫ですから」

「ちょっと待ってね。治癒魔法かけてあげる」
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