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ラベンダー
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「ラベンダーはハーブの一種だからか、胸が温まるような花言葉と共に紹介されることが多いんだよ」
「胸が、温まる………」
「例えば『期待』、『あなたを待ってます』なんて恋愛をイメージさせるようなものじゃないかな。『繊細』、『沈黙』なんてものもあるけど、この場合の沈黙はいい意味のものだ。黙っていても気まずくない関係になりたい、なんて意味もあるんじゃないかな」
「え、えっと」
怒涛の情報量に頭がついていかない。
思わず殿下を見ると、目が合った彼がふわりと微笑んだ。
「僕は、ネアとそんな関係なりたいな」
「…………」
頭が真っ白になった。何をいえばいいかも、わからない。私だって。そう、私こそ、そう思った。殿下のことを信頼してたのに。
「そう…………です、ね」
裏切ったのは、あなたじゃない。
私は、ずっと殿下だけを見てきたのに。それが重い?暗い?そういうのなら、言ってほしかった。ううん、言うんじゃなくて態度で示して欲しかった。私が殿下を好きだと言う度に、殿下も私をおもうような素振りをしたからーーー。私は勘違いした。私は、果たして悪かったのだろうか。私は、どうしてあんな目にあったのだろうか。
悲劇のヒロインになどなりたくない。私は、自分が正しいと思うことをする。リリアベルの言葉が脳裏に蘇った。
死者を冒涜する行為、リリアベルがそれを望んでいないとしても。私は、私が望むハッピーエンドにたどり着きたい。過去に戻ってから、初めて明確に思ったことだった。
×××
王城から邸宅に戻る途中、廊下で見慣れたローブが視界に入ってきた。思わず、息を飲む。灰色の髪に、薄青色の瞳。ボサボサ頭は変わらず、あの時と対して変わらずぼーっとしながら歩いている、少年。
ーーーデルセン
名前を呟いただけで、心臓が痛かった。
彼は私には気づかない。それはそうだろう。ここではまだ、私と彼は出会っていない。恐らくまだ殿下に取り立てられる前、魔術師見習いの頃だろう。相変わらずぼーっとしながら歩く彼は、気を抜きすぎなのか、それともいつものことなのかそのまま壁にぶつかった。
ゴッ!という強い音がする。
い、今のは痛そうだわ………。しかしぶつかった当の本人、デルセンは対して気にした素振りもなく、おでこをさすってすぐに移動しようとする。なぜか、私は声を出していた。
「あっ、あの!」
なぜ呼び止めたのかはわからない。だけど、なぜか、話したかった。デルセンのことは、いい人だと思っていた。だけど私をおいつめ、私を殺したのは紛れもない彼だ。いつもやる気のない彼が、珍しくはっきりと話し、冷徹な瞳をしていた。それが忘れられない。
今の彼は、おそらく無害だ。いきなり私に刃を向けるなんてこと、きっとない。加えてここは王城。まだ私は公爵令嬢だ。王妃ではない。つまりそれは言い換えると、殿下にとって私はまだ利用価値のある、てきとうに扱っていい存在ではない。
自分の道標が見つかったからか、思考が、考えが、クリアになる。
私が過去に戻ったことにより、時系列がずれこまない限り。私は公爵令嬢であるあいだは、おそらく死なない。殺されない。
「胸が、温まる………」
「例えば『期待』、『あなたを待ってます』なんて恋愛をイメージさせるようなものじゃないかな。『繊細』、『沈黙』なんてものもあるけど、この場合の沈黙はいい意味のものだ。黙っていても気まずくない関係になりたい、なんて意味もあるんじゃないかな」
「え、えっと」
怒涛の情報量に頭がついていかない。
思わず殿下を見ると、目が合った彼がふわりと微笑んだ。
「僕は、ネアとそんな関係なりたいな」
「…………」
頭が真っ白になった。何をいえばいいかも、わからない。私だって。そう、私こそ、そう思った。殿下のことを信頼してたのに。
「そう…………です、ね」
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私は、ずっと殿下だけを見てきたのに。それが重い?暗い?そういうのなら、言ってほしかった。ううん、言うんじゃなくて態度で示して欲しかった。私が殿下を好きだと言う度に、殿下も私をおもうような素振りをしたからーーー。私は勘違いした。私は、果たして悪かったのだろうか。私は、どうしてあんな目にあったのだろうか。
悲劇のヒロインになどなりたくない。私は、自分が正しいと思うことをする。リリアベルの言葉が脳裏に蘇った。
死者を冒涜する行為、リリアベルがそれを望んでいないとしても。私は、私が望むハッピーエンドにたどり着きたい。過去に戻ってから、初めて明確に思ったことだった。
×××
王城から邸宅に戻る途中、廊下で見慣れたローブが視界に入ってきた。思わず、息を飲む。灰色の髪に、薄青色の瞳。ボサボサ頭は変わらず、あの時と対して変わらずぼーっとしながら歩いている、少年。
ーーーデルセン
名前を呟いただけで、心臓が痛かった。
彼は私には気づかない。それはそうだろう。ここではまだ、私と彼は出会っていない。恐らくまだ殿下に取り立てられる前、魔術師見習いの頃だろう。相変わらずぼーっとしながら歩く彼は、気を抜きすぎなのか、それともいつものことなのかそのまま壁にぶつかった。
ゴッ!という強い音がする。
い、今のは痛そうだわ………。しかしぶつかった当の本人、デルセンは対して気にした素振りもなく、おでこをさすってすぐに移動しようとする。なぜか、私は声を出していた。
「あっ、あの!」
なぜ呼び止めたのかはわからない。だけど、なぜか、話したかった。デルセンのことは、いい人だと思っていた。だけど私をおいつめ、私を殺したのは紛れもない彼だ。いつもやる気のない彼が、珍しくはっきりと話し、冷徹な瞳をしていた。それが忘れられない。
今の彼は、おそらく無害だ。いきなり私に刃を向けるなんてこと、きっとない。加えてここは王城。まだ私は公爵令嬢だ。王妃ではない。つまりそれは言い換えると、殿下にとって私はまだ利用価値のある、てきとうに扱っていい存在ではない。
自分の道標が見つかったからか、思考が、考えが、クリアになる。
私が過去に戻ったことにより、時系列がずれこまない限り。私は公爵令嬢であるあいだは、おそらく死なない。殺されない。
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