王妃の鑑

ごろごろみかん。

文字の大きさ
上 下
58 / 105

ラベンダー

しおりを挟む
「ラベンダーはハーブの一種だからか、胸が温まるような花言葉と共に紹介されることが多いんだよ」

「胸が、温まる………」

「例えば『期待』、『あなたを待ってます』なんて恋愛をイメージさせるようなものじゃないかな。『繊細』、『沈黙』なんてものもあるけど、この場合の沈黙はいい意味のものだ。黙っていても気まずくない関係になりたい、なんて意味もあるんじゃないかな」

「え、えっと」

怒涛の情報量に頭がついていかない。
思わず殿下を見ると、目が合った彼がふわりと微笑んだ。

「僕は、ネアとそんな関係なりたいな」

「…………」

頭が真っ白になった。何をいえばいいかも、わからない。私だって。そう、私こそ、そう思った。殿下のことを信頼してたのに。

「そう…………です、ね」

裏切ったのは、あなたじゃない。
私は、ずっと殿下だけを見てきたのに。それが重い?暗い?そういうのなら、言ってほしかった。ううん、言うんじゃなくて態度で示して欲しかった。私が殿下を好きだと言う度に、殿下も私をおもうような素振りをしたからーーー。私は勘違いした。私は、果たして悪かったのだろうか。私は、どうしてあんな目にあったのだろうか。
悲劇のヒロインになどなりたくない。私は、自分が正しいと思うことをする。リリアベルの言葉が脳裏に蘇った。
死者を冒涜する行為、リリアベルがそれを望んでいないとしても。私は、私が望むハッピーエンドにたどり着きたい。過去に戻ってから、初めて明確に思ったことだった。

×××

王城から邸宅に戻る途中、廊下で見慣れたローブが視界に入ってきた。思わず、息を飲む。灰色の髪に、薄青色の瞳。ボサボサ頭は変わらず、あの時と対して変わらずぼーっとしながら歩いている、少年。

ーーーデルセン

名前を呟いただけで、心臓が痛かった。
彼は私には気づかない。それはそうだろう。ここではまだ、私と彼は出会っていない。恐らくまだ殿下に取り立てられる前、魔術師見習いの頃だろう。相変わらずぼーっとしながら歩く彼は、気を抜きすぎなのか、それともいつものことなのかそのまま壁にぶつかった。

ゴッ!という強い音がする。
い、今のは痛そうだわ………。しかしぶつかった当の本人、デルセンは対して気にした素振りもなく、おでこをさすってすぐに移動しようとする。なぜか、私は声を出していた。

「あっ、あの!」

なぜ呼び止めたのかはわからない。だけど、なぜか、話したかった。デルセンのことは、いい人だと思っていた。だけど私をおいつめ、私を殺したのは紛れもない彼だ。いつもやる気のない彼が、珍しくはっきりと話し、冷徹な瞳をしていた。それが忘れられない。
今の彼は、おそらく無害だ。いきなり私に刃を向けるなんてこと、きっとない。加えてここは王城。まだ私は公爵令嬢だ。王妃ではない。つまりそれは言い換えると、殿下にとって私はまだ利用価値のある、てきとうに扱っていい存在ではない。
自分の道標が見つかったからか、思考が、考えが、クリアになる。
私が過去に戻ったことにより、時系列がずれこまない限り。私は公爵令嬢であるあいだは、おそらく死なない。殺されない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

年に一度の旦那様

五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして… しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…

恋した殿下、あなたに捨てられることにします〜魔力を失ったのに、なかなか婚約解消にいきません〜

百門一新
恋愛
魔力量、国内第二位で王子様の婚約者になった私。けれど、恋をしたその人は、魔法を使う才能もなく幼い頃に大怪我をした私を認めておらず、――そして結婚できる年齢になった私を、運命はあざ笑うかのように、彼に相応しい可愛い伯爵令嬢を寄こした。想うことにも疲れ果てた私は、彼への想いを捨て、彼のいない国に嫁ぐべく。だから、この魔力を捨てます――。 ※「小説家になろう」、「カクヨム」でも掲載

もう、あなたを愛することはないでしょう

春野オカリナ
恋愛
 第一章 完結番外編更新中  異母妹に嫉妬して修道院で孤独な死を迎えたベアトリーチェは、目覚めたら10才に戻っていた。過去の婚約者だったレイノルドに別れを告げ、新しい人生を歩もうとした矢先、レイノルドとフェリシア王女の身代わりに呪いを受けてしまう。呪い封じの魔術の所為で、ベアトリーチェは銀色翠眼の容姿が黒髪灰眼に変化した。しかも、回帰前の記憶も全て失くしてしまい。記憶に残っているのは数日間の出来事だけだった。  実の両親に愛されている記憶しか持たないベアトリーチェは、これから新しい思い出を作ればいいと両親に言われ、生まれ育ったアルカイドを後にする。  第二章   ベアトリーチェは15才になった。本来なら13才から通える魔法魔術学園の入学を数年遅らせる事になったのは、フロンティアの事を学ぶ必要があるからだった。  フロンティアはアルカイドとは比べ物にならないぐらい、高度な技術が発達していた。街には路面電車が走り、空にはエイが飛んでいる。そして、自動階段やエレベーター、冷蔵庫にエアコンというものまであるのだ。全て魔道具で魔石によって動いている先進技術帝国フロンティア。  護衛騎士デミオン・クレージュと共に新しい学園生活を始めるベアトリーチェ。学園で出会った新しい学友、変わった教授の授業。様々な出来事がベアトリーチェを大きく変えていく。  一方、国王の命でフロンティアの技術を学ぶためにレイノルドやジュリア、ルシーラ達も留学してきて楽しい学園生活は不穏な空気を孕みつつ進んでいく。  第二章は青春恋愛モード全開のシリアス&ラブコメディ風になる予定です。  ベアトリーチェを巡る新しい恋の予感もお楽しみに!  ※印は回帰前の物語です。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

【完結】お前を愛することはないとも言い切れない――そう言われ続けたキープの番は本物を見限り国を出る

堀 和三盆
恋愛
「お前を愛することはない」 「お前を愛することはない」 「お前を愛することはない」  デビュタントを迎えた令嬢達との対面の後。一人一人にそう告げていく若き竜王――ヴァール。  彼は新興国である新獣人国の国王だ。  新獣人国で毎年行われるデビュタントを兼ねた成人の儀。貴族、平民を問わず年頃になると新獣人国の未婚の娘は集められ、国王に番の判定をしてもらう。国王の番ではないというお墨付きを貰えて、ようやく新獣人国の娘たちは成人と認められ、結婚をすることができるのだ。  過去、国の為に人間との政略結婚を強いられてきた王族は番感知能力が弱いため、この制度が取り入れられた。  しかし、他種族国家である新獣人国。500年を生きると言われる竜人の国王を始めとして、種族によって寿命も違うし体の成長には個人差がある。成長が遅く、判別がつかない者は特例として翌年の判別に再び回される。それが、キープの者達だ。大抵は翌年のデビュタントで判別がつくのだが――一人だけ、十年近く保留の者がいた。  先祖返りの竜人であるリベルタ・アシュランス伯爵令嬢。  新獣人国の成人年齢は16歳。既に25歳を過ぎているのに、リベルタはいわゆるキープのままだった。

【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~

Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。 そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。 「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」 ※ご都合主義、ふんわり設定です ※小説家になろう様にも掲載しています

【完結】身分に見合う振る舞いをしていただけですが…ではもう止めますからどうか平穏に暮らさせて下さい。

まりぃべる
恋愛
私は公爵令嬢。 この国の高位貴族であるのだから身分に相応しい振る舞いをしないとね。 ちゃんと立場を理解できていない人には、私が教えて差し上げませんと。 え?口うるさい?婚約破棄!? そうですか…では私は修道院に行って皆様から離れますからどうぞお幸せに。 ☆ あくまでもまりぃべるの世界観です。王道のお話がお好みの方は、合わないかと思われますので、そこのところ理解いただき読んでいただけると幸いです。 ☆★ 全21話です。 出来上がってますので随時更新していきます。 途中、区切れず長い話もあってすみません。 読んで下さるとうれしいです。

自分勝手な側妃を見習えとおっしゃったのですから、わたくしの望む未来を手にすると決めました。

Mayoi
恋愛
国王キングズリーの寵愛を受ける側妃メラニー。 二人から見下される正妃クローディア。 正妃として国王に苦言を呈すれば嫉妬だと言われ、逆に側妃を見習うように言わる始末。 国王であるキングズリーがそう言ったのだからクローディアも決心する。 クローディアは自らの望む未来を手にすべく、密かに手を回す。

処理中です...