王妃の鑑

ごろごろみかん。

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時を戻す(3)

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リリアベルはそこでふと、思い出した。
そう言えばさっきネアモネは『消したい過去がある』といった。弱冠七歳の少女が消したい過去とはなんなのだろう。色々と予想はつくが、ネアモネがそこまで思い詰めているとは思わなかった。リリアベルは言葉を選びながら話を続けた。
あー、と声を出して会話をつなげる。ネアモネは俯いていた。どこか思い詰めたような表情をしている彼女に、リリアベルは明るい声を出した。

「えっと、私過去に弟を亡くしているんですよね」

「え………?あ………そう、だったの」

なんて反応すればいいかわからない。突然重たい話を振ってきたリリアベルに対し、ネアモネは落ち着かない気分になった。
もう少し行けば公爵家が見える。そしたらネアモネはまた、王太子の婚約者という肩書きと、公爵家の娘という肩書きがまとわりつくことになる。
逃げたい、と強く思った。だけど知っている、それが叶うことは無い、と。
いっそ全てを捨てて逃げられればと思う。だけど僅かに残った理性がそれを止める。僅か七歳の少女が1人で逃げ出して、どうやって生活していく?そんなのは、無謀だ。それにもし逃げ出したとしても、連れ戻されるのが落ちだ。資金もない、人脈もない、そして幼い今のネアモネには厳しい判断。

「でも、時を戻したりしたくありません」

リリアベルがはっきりと言う。その言葉に思わずネアモネが顔を上げた。
それと同時に、アモネの足も止まる。

「そう………よね」

ネアモネも好きで時を戻した訳では無い。なぜか、気がついたら時が巻き戻っていたのだ。
立ち止まったネアモネに対してリリアベルが振り返る。夕焼けに染まっていく空が、彼女の髪の色のようだ。

ーーー未来では、私が死なせてしまった。リリアベルを殺したのは私と言ってもいい

そんな思いが呪縛のようにネアモネを縛る。リリアベルに生きていて欲しい、と思うのはいけないことなのか。時を操るのが人智の範疇を超えた神の御業だというのなら、ネアモネを戻したのも神ということになる。
神は自分に何を期待しているのか。………ダメだ。頭が回らない。もしかしたら神様なんて存在していなくて、ただの偶然という可能性もある。全ての事柄に理由が存在する訳では無い。
リリアベルは、ネアモネを見てにこりと笑った。「帰りましょう、ネアモネ様」と彼女から声がかかった。
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