48 / 105
城下(3)
しおりを挟む
「危ないことはなさらないでください…!私がどんなにヒヤヒヤしたか」
リリアベルの叱責を受けながら、ネアモネは苦笑した。
「ごめんなさい。でも、どうしても放っておくことは出来なかったの」
「本当に、お人好しなんですから………。もしこれでネアモネ様に何かあったらと思うと、私は………」
言葉が続かなかったのだろう。リリアベルはティーカップに手を伸ばすとそれを持ち上げた。湯気のたった紅茶に口をつける。
「本当は、ネアモネ様とお食事を同伴するなど、恐れ多いことはしたくないんですよ」
「ふふ。でもいつものようにしたら、ここだと目立ってしまうわ。それに、貴族だって絶対すぐに気づかれるもの」
「それは、そうですが……」
渋るリリアベルを何とかして食事の席につけたネアモネは、苦笑まじりに微笑んだ。彼女もまたティーカップを持ち上げ、紅茶を堪能する。それは、ラベンダーティーのようだった。市井で出されるのは珍しい。しかも、結構香りもいい。それに僅かに驚きながら舌を湿らせる。こうしていると、過去のーーー前の記憶が否応なしによみがえってくる。この香り、この匂い。香りによって綻んでくる記憶に、なんとか蓋をする。忘れたくても忘れられない過去。何も知らないままでいられた、あの夏の夜。
王太子はある時からーーー突然ラベンダーの香水をつけるようになった。それがなぜなのか、よく分からなかったが、きっと。そう。彼女のーーーアデライードの趣味だったのだろう。そうすると、あの頃から殿下とアデライードは通じていたことになる。その事実に、鉛を飲み込んだような気分になった。
「そう言えば、ラベンダーといえば花言葉は沢山ありますけど、不穏なものが多いですよね」
リリアベルが突然話し出す。ネアモネははっと思考の糸を切り、リリアベルを見た。彼女は落ちてきた前髪を耳にかけながら、ネアモネとみた。視線が交わる。リリアベルは首を僅かに傾げながらネアモネに告げる。
「ラベンダーの花言葉は、いいものだと『懇親的な愛』、『期待』などがありますけど、薄暗いものだと『沈黙』、『疑惑』ーーーあ、あと『私に答えてください』なんてものもありますよね。ちょっと怖いです」
「答え、て………」
「そうなんです。ネアモネ様はご存知ありませんでしたか?こんなにいい香りなのに、怖いですよね。贈り物をして間違った意味で取られたりしたら、もっと怖いです」
リリアベルの叱責を受けながら、ネアモネは苦笑した。
「ごめんなさい。でも、どうしても放っておくことは出来なかったの」
「本当に、お人好しなんですから………。もしこれでネアモネ様に何かあったらと思うと、私は………」
言葉が続かなかったのだろう。リリアベルはティーカップに手を伸ばすとそれを持ち上げた。湯気のたった紅茶に口をつける。
「本当は、ネアモネ様とお食事を同伴するなど、恐れ多いことはしたくないんですよ」
「ふふ。でもいつものようにしたら、ここだと目立ってしまうわ。それに、貴族だって絶対すぐに気づかれるもの」
「それは、そうですが……」
渋るリリアベルを何とかして食事の席につけたネアモネは、苦笑まじりに微笑んだ。彼女もまたティーカップを持ち上げ、紅茶を堪能する。それは、ラベンダーティーのようだった。市井で出されるのは珍しい。しかも、結構香りもいい。それに僅かに驚きながら舌を湿らせる。こうしていると、過去のーーー前の記憶が否応なしによみがえってくる。この香り、この匂い。香りによって綻んでくる記憶に、なんとか蓋をする。忘れたくても忘れられない過去。何も知らないままでいられた、あの夏の夜。
王太子はある時からーーー突然ラベンダーの香水をつけるようになった。それがなぜなのか、よく分からなかったが、きっと。そう。彼女のーーーアデライードの趣味だったのだろう。そうすると、あの頃から殿下とアデライードは通じていたことになる。その事実に、鉛を飲み込んだような気分になった。
「そう言えば、ラベンダーといえば花言葉は沢山ありますけど、不穏なものが多いですよね」
リリアベルが突然話し出す。ネアモネははっと思考の糸を切り、リリアベルを見た。彼女は落ちてきた前髪を耳にかけながら、ネアモネとみた。視線が交わる。リリアベルは首を僅かに傾げながらネアモネに告げる。
「ラベンダーの花言葉は、いいものだと『懇親的な愛』、『期待』などがありますけど、薄暗いものだと『沈黙』、『疑惑』ーーーあ、あと『私に答えてください』なんてものもありますよね。ちょっと怖いです」
「答え、て………」
「そうなんです。ネアモネ様はご存知ありませんでしたか?こんなにいい香りなのに、怖いですよね。贈り物をして間違った意味で取られたりしたら、もっと怖いです」
33
お気に入りに追加
1,455
あなたにおすすめの小説

年に一度の旦那様
五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして…
しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…

もう、あなたを愛することはないでしょう
春野オカリナ
恋愛
第一章 完結番外編更新中
異母妹に嫉妬して修道院で孤独な死を迎えたベアトリーチェは、目覚めたら10才に戻っていた。過去の婚約者だったレイノルドに別れを告げ、新しい人生を歩もうとした矢先、レイノルドとフェリシア王女の身代わりに呪いを受けてしまう。呪い封じの魔術の所為で、ベアトリーチェは銀色翠眼の容姿が黒髪灰眼に変化した。しかも、回帰前の記憶も全て失くしてしまい。記憶に残っているのは数日間の出来事だけだった。
実の両親に愛されている記憶しか持たないベアトリーチェは、これから新しい思い出を作ればいいと両親に言われ、生まれ育ったアルカイドを後にする。
第二章
ベアトリーチェは15才になった。本来なら13才から通える魔法魔術学園の入学を数年遅らせる事になったのは、フロンティアの事を学ぶ必要があるからだった。
フロンティアはアルカイドとは比べ物にならないぐらい、高度な技術が発達していた。街には路面電車が走り、空にはエイが飛んでいる。そして、自動階段やエレベーター、冷蔵庫にエアコンというものまであるのだ。全て魔道具で魔石によって動いている先進技術帝国フロンティア。
護衛騎士デミオン・クレージュと共に新しい学園生活を始めるベアトリーチェ。学園で出会った新しい学友、変わった教授の授業。様々な出来事がベアトリーチェを大きく変えていく。
一方、国王の命でフロンティアの技術を学ぶためにレイノルドやジュリア、ルシーラ達も留学してきて楽しい学園生活は不穏な空気を孕みつつ進んでいく。
第二章は青春恋愛モード全開のシリアス&ラブコメディ風になる予定です。
ベアトリーチェを巡る新しい恋の予感もお楽しみに!
※印は回帰前の物語です。

とても「誠実な」婚約破棄をされてしまいました
石里 唯
恋愛
公爵令嬢フェリシアは、8年に及ぶ婚約関係にあった王太子レイモンドから、ある日突然、前代未聞の「誠実な」婚約破棄を提示された。
彼にしなだれかかる令嬢も、身に覚えのない断罪とやらもない。賠償として、レイモンドはフェリシアが婚姻するまで自身も婚姻せず、国一番の金山と、そして、王位継承権まで、フェリシアに譲渡するという。彼女は承諾せざるを得なかったが、疑問を覚えてしまう。
どうして婚約破棄をするの?どうしてここまでの賠償を――?
色々考えているものの、結論は考えていないものと大差が無くなってしまうヒロインと愛が深すぎて溺愛を通り越してしまったヒーローの話です。

そんなに優しいメイドが恋しいなら、どうぞ彼女の元に行ってください。私は、弟達と幸せに暮らしますので。
木山楽斗
恋愛
アルムナ・メルスードは、レバデイン王国に暮らす公爵令嬢である。
彼女は、王国の第三王子であるスルーガと婚約していた。しかし、彼は自身に仕えているメイドに思いを寄せていた。
スルーガは、ことあるごとにメイドと比較して、アルムナを罵倒してくる。そんな日々に耐えられなくなったアルムナは、彼と婚約破棄することにした。
婚約破棄したアルムナは、義弟達の誰かと婚約することになった。新しい婚約者が見つからなかったため、身内と結ばれることになったのである。
父親の計らいで、選択権はアルムナに与えられた。こうして、アルムナは弟の内誰と婚約するか、悩むことになるのだった。
※下記の関連作品を読むと、より楽しめると思います。

姉の婚約者であるはずの第一王子に「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」と言われました。
ふまさ
恋愛
「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」
ある日の休日。家族に疎まれ、蔑まれながら育ったマイラに、第一王子であり、姉の婚約者であるはずのヘイデンがそう告げた。その隣で、姉のパメラが偉そうにふんぞりかえる。
「ぞんぶんに感謝してよ、マイラ。あたしがヘイデン殿下に口添えしたんだから!」
一方的に条件を押し付けられ、望まぬまま、第一王子の婚約者となったマイラは、それでもつかの間の安らぎを手に入れ、歓喜する。
だって。
──これ以上の幸せがあるなんて、知らなかったから。

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~
狭山ひびき@バカふり160万部突破
恋愛
もう耐えられない!
隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。
わたし、もう王妃やめる!
政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。
離婚できないなら人間をやめるわ!
王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。
これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ!
フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。
よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。
「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」
やめてえ!そんなところ撫でないで~!
夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――

跡継ぎが産めなければ私は用なし!? でしたらあなたの前から消えて差し上げます。どうぞ愛妾とお幸せに。
Kouei
恋愛
私リサーリア・ウォルトマンは、父の命令でグリフォンド伯爵令息であるモートンの妻になった。
政略結婚だったけれど、お互いに思い合い、幸せに暮らしていた。
しかし結婚して1年経っても子宝に恵まれなかった事で、義父母に愛妾を薦められた夫。
「承知致しました」
夫は二つ返事で承諾した。
私を裏切らないと言ったのに、こんな簡単に受け入れるなんて…!
貴方がそのつもりなら、私は喜んで消えて差し上げますわ。
私は切岸に立って、夕日を見ながら夫に別れを告げた―――…
※この作品は、他サイトにも投稿しています。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる