王妃の鑑

ごろごろみかん。

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城下(3)

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「危ないことはなさらないでください…!私がどんなにヒヤヒヤしたか」

リリアベルの叱責を受けながら、ネアモネは苦笑した。

「ごめんなさい。でも、どうしても放っておくことは出来なかったの」

「本当に、お人好しなんですから………。もしこれでネアモネ様に何かあったらと思うと、私は………」

言葉が続かなかったのだろう。リリアベルはティーカップに手を伸ばすとそれを持ち上げた。湯気のたった紅茶に口をつける。

「本当は、ネアモネ様とお食事を同伴するなど、恐れ多いことはしたくないんですよ」

「ふふ。でもいつものようにしたら、ここだと目立ってしまうわ。それに、貴族だって絶対すぐに気づかれるもの」

「それは、そうですが……」

渋るリリアベルを何とかして食事の席につけたネアモネは、苦笑まじりに微笑んだ。彼女もまたティーカップを持ち上げ、紅茶を堪能する。それは、ラベンダーティーのようだった。市井で出されるのは珍しい。しかも、結構香りもいい。それに僅かに驚きながら舌を湿らせる。こうしていると、過去のーーー前の記憶が否応なしによみがえってくる。この香り、この匂い。香りによって綻んでくる記憶に、なんとか蓋をする。忘れたくても忘れられない過去。何も知らないままでいられた、あの夏の夜。
王太子はある時からーーー突然ラベンダーの香水をつけるようになった。それがなぜなのか、よく分からなかったが、きっと。そう。彼女のーーーアデライードの趣味だったのだろう。そうすると、あの頃から殿下とアデライードは通じていたことになる。その事実に、鉛を飲み込んだような気分になった。

「そう言えば、ラベンダーといえば花言葉は沢山ありますけど、不穏なものが多いですよね」

リリアベルが突然話し出す。ネアモネははっと思考の糸を切り、リリアベルを見た。彼女は落ちてきた前髪を耳にかけながら、ネアモネとみた。視線が交わる。リリアベルは首を僅かに傾げながらネアモネに告げる。

「ラベンダーの花言葉は、いいものだと『懇親的な愛』、『期待』などがありますけど、薄暗いものだと『沈黙』、『疑惑』ーーーあ、あと『私に答えてください』なんてものもありますよね。ちょっと怖いです」

「答え、て………」

「そうなんです。ネアモネ様はご存知ありませんでしたか?こんなにいい香りなのに、怖いですよね。贈り物をして間違った意味で取られたりしたら、もっと怖いです」
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