王妃の鑑

ごろごろみかん。

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すれ違い /アルフェイン (2)

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それからはネアモネの顔を上手く見られない日が続いた。
彼女が嘘をついている、彼女は僕を騙していたーーー。そればかりが頭に駆け巡る。

そして気づく。むしろ、どうして彼女をそこまで信頼していた?ここは王宮。信じたものが馬鹿を見る、魔の巣窟だ。
今まで信じていた両親すら、僕を、そしてお互いを裏切っていた。母が他の男と通じていたことを、父は知っているのだろうか。父が、国王が王妃の不貞を知らなかったとは思えない。だけど、父のあの様子。あの焦燥具合を思い出す限り、何も知らなかったように見える。
もし、知らなかったのなら。それは幸福なことなのだろうか。

「………偽りの幸福、か………」

幸せなおとぎ話など存在しない。お互いを信頼しあっている関係など、存在しない。
常に僕達は、いや。僕の立場だからこそ相手を疑い、疑心暗鬼にならなければならない。今回はネアモネに男がいる、という事実だけで済んだ。だけどもし、ネアモネが反王制に与していたら。僕の殺害を企てていたら。可能性はゼロではない。彼女のことを訳もなく信頼していた自分に気づき、ため息混じりに気によりかかった。
青空が眩しい、夏のとある日だった。

そして同時期に、アデライードとであった。前々から視線を感じるな、とは思っていたがまさか直接僕に話しかけてくるとは思わなかった。
パーティ会場で長くネアモネといると、どうしても気が張ってしまう。

「………あら?その香り、ラベンダーですか?」

僕の隣を歩く彼女が、ふと顔を上げた。僕もそちらをむく。彼女はやはり何も知らない顔で、僕を見ていた。その瞳には濁りがない。

ーーーこんな目をして、僕を裏切っている。

もはや女優賞をあげたいレベルだな、と内心息を吐いた。僕は自分の髪を一房つかむと、すぐ離した。指から落ちた髪がパラパラと重力に従って落ちる。

「うん。そう。………気に入ってるんだ」

「ふふ、ラベンダーの香りは落ち着きますものね。私もよくラベンダーティーを飲みますわ。紅茶は好きなんです、とても気が安らぐから………」

「そう、なにか気になる事があったらなんでも言って?きみは、僕の婚約者なんだから」

そう言ってネアモネの顔を覗き込むと、彼女はうっすらと頬を初め、小さく頷いた。その表情も、仕草すらも演技なのだと思うと、暗い気持ちがこみあげてきた。それに目を逸らして僕は彼女をエスコートする。そんな日々が続いた。
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