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城下
しおりを挟む「何をしてるんですかっ?」
飛び出すように男の子の前に立ったネアモネは、毅然と男に言った。手は震えているし意識しなければ体全体も震えてしまう。男の人は怖い。だけど怯えていると分かれば相手に舐められてしまう。
ネアモネがぐっと息を詰めて押し殺した声で話すと、店主は胡乱げにネアモネを見た。
「ああ?ガキには用はねえんだよ!それともお前、そいつの姉ちゃんか?」
言われてハッとする。そうだ、今のネアモネは七歳。以前のように大人ではないのだ。ただでさえ女ということで侮られやすいのに、しかもそれに加えて子供だなんて。この場をどう収めるべきか計算しながらネアモネは慎重に言葉を選んだ。
「………いえ」
「じゃあすっこんでな!巻き添えくいたくねえだろ」
「この子が何したって言うんですか?」
思わず食ってかかるように言うと、店主が目をすがめた。
「商品に唾かけやがったんだ!みなしごのくせに、よだれかけやがった!」
ちらりと男の子を見ると、思い詰めた表情で俯いている。本当のことなのだろう。
ネアモネはまたも店主に目をやると、その右手に持っているものを見た。果実だ。値札プレートには安価な数字が並んでいる。
「ひとつ70ロブですよね?」
聞きながらネアモネは小袋に入った金銭取り出した。チャリ、と銅貨を一枚渡す。これで100ロブだ。10ロブは銀色の弊貨と呼ばれるもので換算されるが、手持ちがないから銅貨でいいだろう。
ネアモネに銅貨を突き出された店主はそれとネアモネを見比べ、意地が悪そうに鼻を鳴らした。
「毎度」
これで騒動は収まったわけだ。
男の子は大丈夫だったかと振り向けば、もうそこに少年の姿はなかった。逃げたのかもしれない。助けて貰っておいて礼もないのかと本来であれば思うことだろう。
だけどネアモネは少年の恐怖がよくわかったから、何も言わなかった。
そのまま店角から移動すると、かたずを飲んで見守っていたリリアベルが突っ込んできた。
「大丈夫ですか!?お嬢様、無理はおやめくださいっ……」
「大丈夫よ、ほら。なんともなかったもの」
「そういう問題ではありません!万が一なにかあればこのリリアベル、命を差し出す覚悟ですからね」
「大袈裟よ」
ネアモネはそう言って笑った。
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