王妃の鑑

ごろごろみかん。

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空にかかるのは

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「………少し庭に出ないか?」

「庭、ですか……?」

「季節の花も今見頃だろう?ハッセーヌ公爵家の庭園は見事だと評判だ」

暗に案内しろと言われたネアモネは俯きながら小さく答えた。未だにネアモネは彼の目が見れない。そっとドレスを握って答える。

「………はい」

そうして王太子を伴って庭に出ると、彼が言った通り花は見事なまでに咲き誇っていた。色とりどりの花々に囲まれ、少しだけネアモネの意識も浮上する。
けれど怖いものはどうしたって怖い。今はまだ、ネアモネに優しく接しているが、心の中では何を思っているのか。もしかしたらもうこの時からネアモネのことを疎ましく思っているのかもしれない。

「ネアはどの花が好きなんだ?」

「花………ですか?」

「うん。カーネーション?ライラック?それともスノードロップ?」

王太子は花に詳しいのか、それらしい花の名前を口にあげていく。

好きな花………そんなの考えたこともなかった。ネアモネは花に視線をやりながら、ふと、庭園に咲いている花を見つけた。アネモネの花だ。真っ赤に咲く花は少し毒々しい。血の花と言われることはある。
ネアモネが少し目をふせて回答を探す。好きな花など考えたこともなかったからわからない。好きな花を見つける余裕はなかった。昔のネアモネはアネモネの花が好きだった。だけど花の形とか、匂いとか、色とかから好きになったのではない。ただ単純にアルフェインが褒めたからというだけに過ぎない。
アルフェインに褒められたという理由を抜かせば好きな花などない。

「…………アネモネは?好き?」

その時アルフェインがネアモネに尋ねた。その質問に思わずバッと顔を上げる。まともに視線が交わったのはこれが初めてだとネアモネは気が付かなかった。

「ネアの名前はアネモネから付けられたんだとお父上からうかがった。きみはアネモネの花は好き?」

「…………いえ」

嘘でも好きだと言うべきなのはわかっていた。だけどどうしても言えなかった。この名前は厭わしい。血の花。悲恋の花。恋が叶わない花の名前。
自分が身をもって知ってしまったからか。恋が叶わないと私自身が証明してしまったからか。それとも………アネモネの花言葉の話をしてくれたアルフェインのその言葉はただ単純に私の機嫌をとるものだと気づいてしまったからか。
アネモネは苦手だ。思い出したくない、苦い思い出の塊のよう。

「そう、アネモネの花言葉は知ってる?」

知ってる。そして、この後あなたが何を言うのかも。
だけど彼の言葉を止めるすべはネアモネにはない。ただ黙って以前の言葉を繰り返すのを聞くしかない。

「アネモネの花言葉全般は主に『見捨てられた』とか『儚い恋』だとか、寂しいものが多いよね」

「え………」
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