王妃の鑑

ごろごろみかん。

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庭へ

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王宮につくと既に両親が待ち構えていた。相変わらずの能面ぶりに背筋が冷たくなる。彼らは馬車からでてきた私をちらりと見ると、御者に向かって声をかける。

「遅かったな」

「も、申し訳ございません」

御者が慌てて返事をした。休憩も挟んでいないのに遅いと言われる始末。もし休んでいたらもっと詰られていただろう。
お父様もお母様も興味のない瞳で私を見てくる。冷たい瞳に思わず俯いてしまった。

「ネアモネ、行きますよ。お前はただでさえ愛想がないんだから殿下の前では取り繕いなさい。分かりましたね」

お母様の言葉だ。これも、何もかも同じ。

「ネアモネ、返事は」

苛立ったように言うお父様に小さく言葉を返した。

「分かりました」

視界がぐらぐらする。目眩がする。足元がおぼつかない。信じられなかった。吐き気がする。このままいっそ、倒れてしまいたい。ぐらぐら、ゆらゆらと揺れる王宮を目にしながら私はお父様たちに続いた。
従者に庭園に案内され、私は初めて陛下と会った庭に足を踏み入れた。ザァ、と風が吹き花がまう。何もかもが同じで、嫌になる。頭がガンガンと鳴り響いた。
徐々に徐々に早くなっていく呼吸音に気づき、意図的に深呼吸する。目頭が圧迫されたように視界が狭い。

花がまう庭園。
綺麗な青空。
あたたかな日差し。

何もかもが同じで、そしてここで私は運命の出会いをする。初めて会った婚約者はこの世の人ではないほどに美人で、綺麗な顔立ちをしていた。まるで童話の王子様のようで、私はすぐに恋に落ちたのだったわ…………。

これからどうすればいいのか。どうしたら、私は死なずにすむのか。どうしたらリリアベルは死ななくて済む?

……………婚約を回避することは、出来ないのかしら………?

だけどこれは王家との婚約話だ。向こうから断られるならまだしも、臣下である公爵家が断るなどありえない。立場はかなり悪くなるし、不敬罪で処断される可能性もある。社交界での立場だって一気に悪くなるだろう。何より、断ろうなど両親が許すはずがない。
では、それでは、彼から断ってもらえばいい。寧ろそれしかないだろう。でも、どうやって?いつから彼に憎まれていたのかわからない。そんな私がどうやって彼に婚約破棄を決断してもらうというのだろうか。

気がつけば目の前に影が落ちていた。
その影にハッとして恐る恐る視線をあげる。

「ネアモネ!ご挨拶なさい」

お母様の鋭い指摘が耳から抜けていく。顔を上げると、そこには記憶と何ら変わらない姿の王太子殿下がいた。
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