王妃の鑑

ごろごろみかん。

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王妃の義務(2)

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それからまた日が過ぎた。
そしてある日の夜、唐突にも陛下の訪れを知らされた。思わず体が固まり、そんな私をリリアベルが心配そうに見てくる。

「………体調が悪いと断りますか?」

「………………………いえ。いえ………いいのよ、別に…………」

ようやく絞り出した声は、私のものとは思えないほどに掠れていた。
思い出すのはあの夜のことだ。何しに来るのだろう?もうアデライード様とは関わっていない。陛下の不興を買うような真似していない。自分の膝の上で、知らずしてネグリジェを強く掴んでいた。
扉が叩かれ、リリアベルが扉に向かう。背を向けるリリアベルに思わず手を伸ばしてしまいそうになった。待って、いかないで、と言えたらどんなにいいことか。だけど言っても変わらない。誰も、何も、変わらない。

「…………人払いを」

いつの間にか部屋に入った陛下がリリアベルたちに言う。リリアベルだけはやはり私を最後まで心配そうに見ていた。
何しにいらっしゃったの?なぜ来たの?わからない。分からないけれど、心臓の音だけが嫌に早い。………怖い、と思う。純粋な恐怖が私を縛る。

「久しいな、ネアモネ。相変わらず骨のような体つきをしている」

「…………」

「全く、お前相手にどう欲情しろというんだ」

あきれ交じりに陛下がそういう。
そう言いながら私の真向かいのソファに腰をかける。………何しにいらっしゃったのだろう。
恐る恐る視線をあげると、陛下と目があった。彼は宝石のような透き通った瞳をしていたが、やはりその目は氷のように冷たかった。凍てつくような視線に晒され、心臓が痛くなる。

「返事はないのか」

相手を気遣うような色がない声に突き動かされ、何とか言葉を紡いだ。

「もっ………申し訳、ありません………」

小声で返す。怖くても、恐れていても、悔しくても、悲しくても。それでもこう返すしかない。言い返したらダメだ。またあの日の夜のようなことになりかねない。私は恐ろしかった。陛下が怖かった。
俯いたまま答えた私に、陛下が短くため息をついた。
そして物音が響く。陛下がソファから立ち上がったのだ。

「ネアモネ、喜べ。王妃の義務を果たさせてやる」

そうして吐き捨てるように言われた言葉に、しばらく理解が追いつかなかった。
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