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王妃の義務
しおりを挟む「………妃殿下?」
会話の終止符を知る。きっと彼はもう私と話そうとしないだろう。先程の気安い態度も、取り繕わない姿勢も全て覆すだろう。そして慇懃無礼な態度でこの場を去っていくのだ。何度も見た事のある態度に、今更なんとも思わない。だけど先程は素で話していたような気がする彼が手のひらを返すさまはあまり見たくないなとも思った。
「………リリアベル、なにか包むものを持ってきてあげて。持ちきれないんですって」
事務的な声でリリアベルに言うと、彼女は困惑したように私を見ていた。だけど私の指示にハッとして頭を下げる。
「それでは、ごきげんよう。デルセン魔術師閣下」
彼にそう言って自分の執務室に再度足を向けようとした時だった。中腰でカポスを拾っていたデルセンがおもむろに立ち上がった。思ったよりも身長が高くて少し驚いた。
そして私をじっとみてくる。不躾な視線に思わず動揺した。
「………何?」
「いや、スミマセン。妃殿下とは思わず」
「………気にしないで。私は部屋に向かいます。デルセン様はリリアベルが来るまで少しお待ちください」
「………リリアベルって誰ですか?」
そこからか。思わず脱力した私は困った思いでデルセンを見た。
「さっきの侍女よ」
「………?………スミマセン、顔を覚えてなくて」
「今居たでしょう!?」
眉を寄せて難しい問題を前にした顔をするデルセン。そんな彼に思わず声をはりあげてしまっていた。
「オレンジアッシュの明るい髪色の娘よ…………目の色は緑で、ここを、髪をふわふわさせてる………」
どうしていまさっきまでここにいたリリアベルの説明をしなくてはいけないのか。頬の下あたりに手を寄せてふわふわと言う表現をする。彼女は耳元の髪を少し垂らしてふわふわと巻いている女性だ。
「……………さっきの女性ですか?」
「そう!そうよ、彼女がリリアベル。分かった?」
「スミマセン、ぼんやりとしか……………なんか………小さかったですよね………」
「私より身長は高いわ」
「でも俺よりは小さかった」
「あなた基準にしたらほとんどの女性はあなたより小さいと思うわ」
おそらくデルセンは陛下と同じくらい高いのではないかしら。そう思った時、背筋が凍った。………そう、そうよ。何、私こんなに和気あいあいと話してるの。デルセンは陛下の側近なのに。気軽に話しては一番いけない人なのに。それに気づいた時、知らずして思わず後ずさっていた。
「妃殿下?」
「っ………」
小さな悲鳴はすんでのところで押し殺した。訝しく思ったのか足をかがめぐっと顔を近づけてくるデルセン。それに一気に記憶が巻き起こされた。知らぬ人の息遣い、組み伏せられた体、痛む手、蹴られた腹、縛られた手首。………それをなぜこのタイミングで思い出したかは分からない。だけど私は思わず崩れ落ちそうになりながら後ずさった。ぎこちないら動作でそれでもデルセンと距離をとると、彼は不思議そうにしていたが、何も聞かなった。
次の瞬間には私から興味をなくしたのか、黙ってカポスを拾い上げ始める。
静かな廊下に、私の心臓の音だけが響いた。そのあとリリアベルが戻ってきて、私とデルセンは別れた。
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