王妃の鑑

ごろごろみかん。

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絶望が巣食った日

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「陛下、おやめ下さい!妃殿下に何をなさるのですか!」

悲鳴のような声をリリアベルが上げる。それを聞いた陛下が僅かに目を細めた。そして剣の矛先を勢いよく変えて、リリアベルに向けた。いけない、リリアベルに剣先が向いてしまったことに慌てて、私はすぐさま立ち上がった。

「黙れ、お前には聞いていない。下がれ」

「ですがっ………!」

「リリアベル、下がって」

私が僅かにむせながら言うと、リリアベルはなにか言いたそうに口を開く。だけど陛下の命令には逆らえない。そのまま頭を下げて部屋を出ていった。それを見届けて、トン、と陛下がカーペットに剣先を付けた。

「それで?アデライードに何を言った?」

「…………彼女がなにか仰ったのですか」

「白々しい。お前がなにか吹き込んだのだろう。姑息な女だな。王妃の鏡らしくあれと言ったにも関わらず。お前の口は余計なことばかり言う。いっそ縫いつけた方がいいか?」

そう言って陛下が私の顎をおもむろに掴んだ。身長差のせいで見上げる格好になった私を、陛下は遠慮ない力で顎を掴む。ギリギリ、という音がたつ。痛みのあまり思わず声を上げる。

「っ痛………」

体をひねると、陛下が乱暴に手を離した。

「第三妃を据えろと言ってきた。…………心当たりはお前しかいない」

「違います!確かにアデライード様は私に………っ」

「……やはり知っていたか」

反射的に言葉を返すと、ため息とともに陛下が呟いた。そして剣をさやに収める。
確かにアデライード様は私に相談をしてきた。だけど私は何も言っていない……!それを言おうとしたが、しかし私よりも先に陛下が口を開いた。

「従順な女だと思っていたが、あてが外れたな。こんな狡猾な真似をするとは思わなかった。ネアモネ、お前は意外としたたかだな。じゃなければ王妃などにはならないか」

嘲笑するように陛下が言う。そしておむもろに私の髪を掴んだ。その勢いに思わず体がぶれる。

「痛っ…………」

「どうしたらお前は諦める。言っただろう、王妃の鏡であれと。余計な真似はするな」

「そ、それ………は」

ひっくり返った声が零れる。耐えられなかった。私は髪を掴まれたまま陛下に言った。

「都合のいい、人形のようであれた仰るのですか………!」

「最初にそれを望んだのはお前だ。王妃という肩書きがあるんだから満足だろう?」

「何を………っ」

そこまで言うと、陛下がさらに髪をぐっと掴み引き寄せる。ブチブチっと何本か髪が抜けた。痛みに顔をしかめる。


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