5 / 105
王妃の鑑
しおりを挟む
陛下の愛がわたくしにないと知って、感じたのは空虚だった。わたくしには何も無いのだと今になって気づいた。わたくしは陛下以外に何も無い。今になって気づいたが、今更気づいてももう遅い。わたくしを形作るのは彼しかなかったのだ。依存とも言う。盲信とも言う。
ーーーわたくしには何も無いのだわ。
陛下の鋭い目付き。睨むような、冷たい眼差し。まるで親の仇でも見るかのようだった。その瞳を思い出して思わず自嘲する。………今頃、陛下はアデライードと夜を過ごしているのかしら。そう思うと、なんとも情けなくなった。冷たい窓のそばまで歩き、窓に手を当てる。ひんやりとしたその冷たさがわたくしの意識をしっかりさせる。………死んでしまいたい。いっその事、死んでしまいたい。わたくしは思わずそう思ったが、緩く首を振る。………ダメだわ、自分から命を絶つなんて。神に背く教えだもの………。だけど、もう全てがどうでも良くなってしまった。
「かみさま………」
ぽつりと呟いた言葉は誰に聞かれることなく空気に溶けていく。神様なんて、本当にいるのかしら………?
その夜は何事も無く、過ぎていった。次の日。わたくしは日が高いうちに陛下に呼ばれた。きっと今後のことについてだろう。陛下への愛はまう消え失せていた。わたくしの心を占めるのは深い絶望。これから今までよりも長い人生をこの方と………ここで歩まなければならないのかと思うと、心臓がボロボロと崩れていく思いだった。
扉をノックして部屋の入室許可をうかがう。聞こえてきたのは相変わらず耳に優しい、陛下の声だった。こうなってしまった今でも、その声を聞くと胸がざわつく。その事に自分自身が恨めしかった。悔しい。
どうして忘れられないの。どうして憎めないの。苦しい。悲しい。…………やはり、死んでしまいたい、と。強く思ってしまう。
「入れ」
「………失礼いたします」
「遅かったね、座って?」
「はい」
八歳の誕生日に訪れた部屋と、何ら変わらない執務室。変わったのはわたくしと陛下だけ。ソファに座ると、陛下は執務椅子に腰掛けたまま口を動かした。わたくしのことを見ようともしない。その仕草に、本当にわたくしのことを好きではないのだと知った。今までであればわたくしに優しく笑いかけてくれたのに。あれはなぜ………?
なぜわたくしに優しくしたの。答えは聞かなくてもわかる。わたくしと結婚するためだ。わたくしは仮初の王妃として必要なのだろう。そのために、ご機嫌うかがいをする必要があった。だけど結婚した以上、もうその必要は無い………そういったとこかしら。
ーーーわたくしには何も無いのだわ。
陛下の鋭い目付き。睨むような、冷たい眼差し。まるで親の仇でも見るかのようだった。その瞳を思い出して思わず自嘲する。………今頃、陛下はアデライードと夜を過ごしているのかしら。そう思うと、なんとも情けなくなった。冷たい窓のそばまで歩き、窓に手を当てる。ひんやりとしたその冷たさがわたくしの意識をしっかりさせる。………死んでしまいたい。いっその事、死んでしまいたい。わたくしは思わずそう思ったが、緩く首を振る。………ダメだわ、自分から命を絶つなんて。神に背く教えだもの………。だけど、もう全てがどうでも良くなってしまった。
「かみさま………」
ぽつりと呟いた言葉は誰に聞かれることなく空気に溶けていく。神様なんて、本当にいるのかしら………?
その夜は何事も無く、過ぎていった。次の日。わたくしは日が高いうちに陛下に呼ばれた。きっと今後のことについてだろう。陛下への愛はまう消え失せていた。わたくしの心を占めるのは深い絶望。これから今までよりも長い人生をこの方と………ここで歩まなければならないのかと思うと、心臓がボロボロと崩れていく思いだった。
扉をノックして部屋の入室許可をうかがう。聞こえてきたのは相変わらず耳に優しい、陛下の声だった。こうなってしまった今でも、その声を聞くと胸がざわつく。その事に自分自身が恨めしかった。悔しい。
どうして忘れられないの。どうして憎めないの。苦しい。悲しい。…………やはり、死んでしまいたい、と。強く思ってしまう。
「入れ」
「………失礼いたします」
「遅かったね、座って?」
「はい」
八歳の誕生日に訪れた部屋と、何ら変わらない執務室。変わったのはわたくしと陛下だけ。ソファに座ると、陛下は執務椅子に腰掛けたまま口を動かした。わたくしのことを見ようともしない。その仕草に、本当にわたくしのことを好きではないのだと知った。今までであればわたくしに優しく笑いかけてくれたのに。あれはなぜ………?
なぜわたくしに優しくしたの。答えは聞かなくてもわかる。わたくしと結婚するためだ。わたくしは仮初の王妃として必要なのだろう。そのために、ご機嫌うかがいをする必要があった。だけど結婚した以上、もうその必要は無い………そういったとこかしら。
41
お気に入りに追加
1,487
あなたにおすすめの小説

年に一度の旦那様
五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして…
しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…

恋した殿下、あなたに捨てられることにします〜魔力を失ったのに、なかなか婚約解消にいきません〜
百門一新
恋愛
魔力量、国内第二位で王子様の婚約者になった私。けれど、恋をしたその人は、魔法を使う才能もなく幼い頃に大怪我をした私を認めておらず、――そして結婚できる年齢になった私を、運命はあざ笑うかのように、彼に相応しい可愛い伯爵令嬢を寄こした。想うことにも疲れ果てた私は、彼への想いを捨て、彼のいない国に嫁ぐべく。だから、この魔力を捨てます――。
※「小説家になろう」、「カクヨム」でも掲載

誤解なんですが。~とある婚約破棄の場で~
舘野寧依
恋愛
「王太子デニス・ハイランダーは、罪人メリッサ・モスカートとの婚約を破棄し、新たにキャロルと婚約する!」
わたくしはメリッサ、ここマーベリン王国の未来の王妃と目されている者です。
ところが、この国の貴族どころか、各国のお偉方が招待された立太式にて、馬鹿四人と見たこともない少女がとんでもないことをやらかしてくれました。
驚きすぎて声も出ないか? はい、本当にびっくりしました。あなた達が馬鹿すぎて。
※話自体は三人称で進みます。
(完結)婚約破棄から始まる真実の愛
青空一夏
恋愛
私は、幼い頃からの婚約者の公爵様から、『つまらない女性なのは罪だ。妹のアリッサ王女と婚約する』と言われた。私は、そんなにつまらない人間なのだろうか?お父様もお母様も、砂糖菓子のようなかわいい雰囲気のアリッサだけをかわいがる。
女王であったお婆さまのお気に入りだった私は、一年前にお婆さまが亡くなってから虐げられる日々をおくっていた。婚約者を奪われ、妹の代わりに隣国の老王に嫁がされる私はどうなってしまうの?
美しく聡明な王女が、両親や妹に酷い仕打ちを受けながらも、結局は一番幸せになっているという内容になる(予定です)

愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

【完結】身分に見合う振る舞いをしていただけですが…ではもう止めますからどうか平穏に暮らさせて下さい。
まりぃべる
恋愛
私は公爵令嬢。
この国の高位貴族であるのだから身分に相応しい振る舞いをしないとね。
ちゃんと立場を理解できていない人には、私が教えて差し上げませんと。
え?口うるさい?婚約破棄!?
そうですか…では私は修道院に行って皆様から離れますからどうぞお幸せに。
☆
あくまでもまりぃべるの世界観です。王道のお話がお好みの方は、合わないかと思われますので、そこのところ理解いただき読んでいただけると幸いです。
☆★
全21話です。
出来上がってますので随時更新していきます。
途中、区切れず長い話もあってすみません。
読んで下さるとうれしいです。

【コミカライズ・取り下げ予定】アマレッタの第二の人生
ごろごろみかん。
恋愛
『僕らは、恋をするんだ。お互いに』
彼がそう言ったから。
アマレッタは彼に恋をした。厳しい王太子妃教育にも耐え、誰もが認める妃になろうと励んだ。
だけどある日、婚約者に呼び出されて言われた言葉は、彼女の想像を裏切るものだった。
「きみは第二妃となって、エミリアを支えてやって欲しい」
その瞬間、アマレッタは思い出した。
この世界が、恋愛小説の世界であること。
そこで彼女は、悪役として処刑されてしまうこと──。
アマレッタの恋心を、彼は利用しようと言うのだ。誰からの理解も得られず、深い裏切りを受けた彼女は、国を出ることにした。
一方、彼女が去った後。国は、緩やかに破滅の道を辿ることになる。

殿下が好きなのは私だった
棗
恋愛
魔王の補佐官を父に持つリシェルは、長年の婚約者であり片思いの相手ノアールから婚約破棄を告げられた。
理由は、彼の恋人の方が次期魔王たる自分の妻に相応しい魔力の持ち主だからだそう。
最初は仲が良かったのに、次第に彼に嫌われていったせいでリシェルは疲れていた。無様な姿を晒すくらいなら、晴れ晴れとした姿で婚約破棄を受け入れた。
のだが……婚約破棄をしたノアールは何故かリシェルに執着をし出して……。
更に、人間界には父の友人らしい天使?もいた……。
※カクヨムさん・なろうさんにも公開しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる