王妃の鑑

ごろごろみかん。

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仮初の王妃

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「おめでとう、ネアモネ。来ると思っていた」

アルフェイン様の執務室に向かうと、彼はわたくしが来るのがわかっていたように微笑んでくださった。その顔に嬉しくなってわたくしはすぐに彼の近くに向かう。
執務室には誰もいなかった。ちょうど休憩中だったのか、殿下は執務机ではなく執務室に置かれたソファに腰かけていた。その前には紅茶が置かれている。

「座って」

彼に促されてわたくしも対面に腰掛ける。八歳の誕生日。誰よりも、何よりもアルフェイン様に祝って欲しかった。
わたくしの顔を見ると、アルフェイン様は少し微笑んだ。

「少し待ってて」

そう言って彼は席を立つ。何を持ってくるのだろうと思っていると、その手には花束があった。

「それは………?」

「きみの名前の由来はアネモネの花から来てるんだろう?だから、アネモネの花束を君にと思って」

そう言って少し照れたように笑うアルフェイン様にわたくしはどうしようもなく嬉しくなった。この気持ちを表したくて、わたくしは席を立つと殿下の近くに歩いていった。目の前で向き合うと、殿下が優しい瞳を向けてくださった。
直接誰かに祝ってもらえたのは初めてだった。公爵家には毎年祝いの品が届くが、誰とも親交のないわたくしは祝いの言葉をかけてもらったことがなかった。
きっとアルフェイン様にとってはなんてことないこと。ただ、必要に応じて行ったこと。それをわたくしが必要以上に感激してしまったのが全ての間違い。
何が狂ってこうなってしまったのか分からない。だけどわたくしは、どうしても嬉しかった。

「………ありがとうございます、殿下。大切に、大切にします」

「………うん、誕生日おめでとう、ネアモネ」

そのまま花束を渡されたわたくしはきっと誰よりも幸せな誕生日だっただろう。
月日は流れ、穏やかな関係でわたくしとアルフェイン様は絆を築いていったはずだった。
けれど、そう思っていたのはわたくしだけだったらしい。
初夜の間を追い出されて呆然とするわたくしに、陛下の側近であるカイゼル様が近づいてくる。

「妃殿下、部屋を案内します」

………部屋?
わたくしの部屋は、ここじゃないの?
ちらりと後ろを振り返る。夫婦の寝室だと案内されたはずの部屋。
なぜ追い出されたのか、そもそもアデライード………彼女はアルフェイン様とどのような関係なのか。それすらも分からない。糸の切れた人形のようなわたくしの手をいささか乱暴にカイゼルさまがとる。
驚いて顔を上げるわたくしに、彼はイラついた様子を見せた。
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