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油断は命取り
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(そんなことよりも……?)
今すぐ、部屋から叩き出してやろうか。
さらに彼を睨みつけると、明らかにジェラルド様は怯んだ様子を見せた。
フローレンス様は、私たちの様子を交互にみていたが、突然ジェラルド様に飛びついた。
「待って!私、何もされてないわ……!だから、早く部屋を出てあげましょう?ルナマリア様は、お支度の途中なの!貴族は、そういうのだめなんでしょ?」
フローレンス様は、ジェラルド様が爵位を継いですぐの視察で、市井で見初めた娘である。街では美人と評判の娘で、たちまちジェラルド様は彼女の虜になったそうだ。
爵位を継いですぐ平民の恋人を作ったことで、彼はずいぶんと批判を受けた。そもそも、彼が爵位を継いだのは、先代の急死が理由だったのだ。
先代伯爵は持病を持っていたとはいえ、喪に服さなければならない期間中に、ジェラルド様は恋人を作った。眉を寄せられても仕方の無い行動だ。
(あの時の醜聞はほんとうに酷かった……)
噂が噂を呼び、前伯爵は毒殺されたのでは、とか。家を乗っ取りたいフェリア家の手によるものなのでは、とか。
なかなか収集がつかなかったのである。
その騒ぎを収めてくれたのが、リドランス公爵。社交界で持ち切りの醜聞に彼も思うところがあったようで、ご自身のご息女の婚約を整えて公表した。それによりルーゼン家の醜聞騒ぎは徐々に消火されていったのだ。
リドランス公爵は、ルーゼンにとっても恩人だと言うのに、ジェラルド様は彼を嫌っている。何でも、偉そうにしているのが気に食わないそうだ。
そんなどうしようもない理由でリドランス公爵に背を向け、ついに先日、彼からの注意も受けた。今思うに、あれはリドランス公爵の最後通告だったように思う。
だから、このままではいけないのだ。
フローレンス様とジェラルド様が部屋を出ていくと、室内には静寂が戻った。
私は、ふたたびドレッサーの前に落ちた櫛を手に取ると、髪を梳る。
私の、限りなく白に近い金髪は、まるで髪自体に強い意志でもあるかのように癖がある。オイルを手に取って、髪に馴染ませ、暴れ気質の髪を抑え込む。髪を軽く編み、後頭部で軽くまとめるた。
これで、髪のセットは完了だ。
──その夜。
目的のものが届いた。
思った以上に早い。
(お父様の手腕に感謝しなければね)
父は、私と同じで言葉数は少ないが商売人なだけあって動きが早い。さすが、一代で男爵位を買うだけの富を築いたひとだ。
昨日の夜会の目的は、これだった。
ペーパーナイフで封を切る。
中からは二枚の便箋が。
一枚には、通常の挨拶文句と、先日の夜会での話が記されている。
もう一枚は、フェリア男爵家での日々が綴られていた。
お兄様は相変わらず結婚する気がないこと。
弟のマクシミリアンの剣の腕が良くなってきたこと。
先日焼いた、お母様のパイがとても美味しかったこと……。
それに視線を向けながら、私は静かに指先を紙面に走らせる。
「目的……のものは、剣の……鞘」
それは、暗号だった。
フェリア男爵家の人間にしか解けない、暗号。我が家は、金だけはある成金貴族なので、万が一誘拐された時、内密の連絡が取れるようにと仕込まれたものだ。
手紙とともに、実家から贈り物が届いたと聞いている。それは既に、自室に置かれているはずだ。
私は、自身が使う武器は自ら確認したい質だ。それを邸の人間は知っているので、そのまま置かれていることだろう。
私は暗号をすべて読み解くと、便箋を封筒に戻した。
そして──部屋に戻ると、私の人生でいちばんと言っていい衝撃が、私を待っていた。
今すぐ、部屋から叩き出してやろうか。
さらに彼を睨みつけると、明らかにジェラルド様は怯んだ様子を見せた。
フローレンス様は、私たちの様子を交互にみていたが、突然ジェラルド様に飛びついた。
「待って!私、何もされてないわ……!だから、早く部屋を出てあげましょう?ルナマリア様は、お支度の途中なの!貴族は、そういうのだめなんでしょ?」
フローレンス様は、ジェラルド様が爵位を継いですぐの視察で、市井で見初めた娘である。街では美人と評判の娘で、たちまちジェラルド様は彼女の虜になったそうだ。
爵位を継いですぐ平民の恋人を作ったことで、彼はずいぶんと批判を受けた。そもそも、彼が爵位を継いだのは、先代の急死が理由だったのだ。
先代伯爵は持病を持っていたとはいえ、喪に服さなければならない期間中に、ジェラルド様は恋人を作った。眉を寄せられても仕方の無い行動だ。
(あの時の醜聞はほんとうに酷かった……)
噂が噂を呼び、前伯爵は毒殺されたのでは、とか。家を乗っ取りたいフェリア家の手によるものなのでは、とか。
なかなか収集がつかなかったのである。
その騒ぎを収めてくれたのが、リドランス公爵。社交界で持ち切りの醜聞に彼も思うところがあったようで、ご自身のご息女の婚約を整えて公表した。それによりルーゼン家の醜聞騒ぎは徐々に消火されていったのだ。
リドランス公爵は、ルーゼンにとっても恩人だと言うのに、ジェラルド様は彼を嫌っている。何でも、偉そうにしているのが気に食わないそうだ。
そんなどうしようもない理由でリドランス公爵に背を向け、ついに先日、彼からの注意も受けた。今思うに、あれはリドランス公爵の最後通告だったように思う。
だから、このままではいけないのだ。
フローレンス様とジェラルド様が部屋を出ていくと、室内には静寂が戻った。
私は、ふたたびドレッサーの前に落ちた櫛を手に取ると、髪を梳る。
私の、限りなく白に近い金髪は、まるで髪自体に強い意志でもあるかのように癖がある。オイルを手に取って、髪に馴染ませ、暴れ気質の髪を抑え込む。髪を軽く編み、後頭部で軽くまとめるた。
これで、髪のセットは完了だ。
──その夜。
目的のものが届いた。
思った以上に早い。
(お父様の手腕に感謝しなければね)
父は、私と同じで言葉数は少ないが商売人なだけあって動きが早い。さすが、一代で男爵位を買うだけの富を築いたひとだ。
昨日の夜会の目的は、これだった。
ペーパーナイフで封を切る。
中からは二枚の便箋が。
一枚には、通常の挨拶文句と、先日の夜会での話が記されている。
もう一枚は、フェリア男爵家での日々が綴られていた。
お兄様は相変わらず結婚する気がないこと。
弟のマクシミリアンの剣の腕が良くなってきたこと。
先日焼いた、お母様のパイがとても美味しかったこと……。
それに視線を向けながら、私は静かに指先を紙面に走らせる。
「目的……のものは、剣の……鞘」
それは、暗号だった。
フェリア男爵家の人間にしか解けない、暗号。我が家は、金だけはある成金貴族なので、万が一誘拐された時、内密の連絡が取れるようにと仕込まれたものだ。
手紙とともに、実家から贈り物が届いたと聞いている。それは既に、自室に置かれているはずだ。
私は、自身が使う武器は自ら確認したい質だ。それを邸の人間は知っているので、そのまま置かれていることだろう。
私は暗号をすべて読み解くと、便箋を封筒に戻した。
そして──部屋に戻ると、私の人生でいちばんと言っていい衝撃が、私を待っていた。
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