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ある意味、似たもの同士

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──翌日。

朝の支度を整えていると、扉がノックされた。

(メイドかしら……?)

そう思って誰何しようとしたところで。

「失礼します……!」

と、聞き覚えのある声とともに、扉が開かれた。 

「……!?」

驚きのあまり、固まってそちらを見る。そこには、しっかり朝の支度を整え終わった、フローレンス様が。

(なぜここに……)

というか、私は今まさに支度中なのだけど。
いやその前に、まだ入室の許可を出していないのだけど私は……??

(……入ってきてしまったなら仕方ないか)

私は手に持っていた櫛をドレッサーの前に置いた。
いつも、私は自分の支度は自身で行う。フェリアの家でもそうしていたし、他人に体を触れるのは苦手だった。髪は編んでおらず、下ろしたままだ。

フローレンス様は、胸と肩の開いた桃色のドレスに身を包んでいた。相変わらず、寒そうな格好だと思う。せめて、ショールくらい羽織った方がいいのではないだろうか。

「……おはようございます」

彼女に尋ねると、なぜか彼女は狼狽えた様子だった。
私を、上から下まで眺めて──。

「か、髪を下ろすとずいぶん雰囲気が変わるんですね……っ!」

彼女の言葉に、私は首を傾げた。
確かに私の髪は長い。長いが、貴族の女などみんなこんなものだろう。
現に、フローレンス様だって長い。

(ああ、でも……)

彼女は、いつも髪を下ろしてるな……。

「そうでしょうか?まとまりにくい髪質なので、毎朝大変です」

「毎朝……。自分でされてるんですか?メイドは?」

彼女は、そこで気がついたのだろう。
部屋に、私しかいないことに。
私は彼女の疑問に軽く頷いて答えた。

「ええ。ひとりでやる方が手早くできますから」

「そ、そうなの……。…………あ、あのっ!」

そこで、彼女は思い詰めたように言った。
いつもちいさな声で話す彼女が、こんな大声を出すのは初めて聞いた。少しびっくりしていると、彼女はもじもじと胸の前で指を絡めながら言う。

「昨日は……ごめんなさい。ジェラルド様が……あの、勘違いして」

「──ああ」

そう言えば、彼には『フローレンス様を泣かせた』と責められたのだった。

(……結構強めに鳩尾を打ってしまったけど、そっちは大丈夫かしら?)

ふと気になったので、それとなくメイドに確認にておこう。そう思いながら、私はフローレンス様に答えた。

「構いません。誤解は解けましたか?」

「えっ……」

「何はともあれ、彼には場を弁えてもらいたいものです。一度思い込むと、向こう見ずな性格……あれ、どうにかならないのでしょうか」

尋ねると、フローレンス様はさらに狼狽えたようだった。困惑した彼女を見て、彼女に言っても仕方ないのないことか、と思い直す。

「……なんでもありません。話はそれだけですか?支度を進めたいので、話が済んだら出ていって──」

と、言ったところで。
ドスドスという荒い足音が聞こえてきた。

嫌な予感がする。
そして、得てして嫌な予感というのは当たってしまうものだ。
いや、この場合外しようもないか。

次の瞬間、バンッ!と勢いよく部屋の扉が押し開かれる。そこにいたのは、予想通りジェラルド様である。

「…………」

フローレンス様もそうだけど、どうしてどいつもこいつも勝手に部屋に入ってくるのだろうか。
まず入室の許可を取るのが礼儀だし、そもそもこんな朝早い時間にひとを訪ねるのがおかしい。

ジェラルド様は怒り心頭といった様子で、ギッと私睨みつけてきた。

「おい、ルナマリア!!フローレンスが……フローレンス!?それに……お前、ルナマリアか……?」

勢いよく私の名を呼んだわりに、その勢いはみるみるうちに萎んでいく。まさか、部屋にフローレンス様もいるとは思っていなかったのだろう。
彼はフローレンス様を見て、そしてまた私に視線を移す。
なにやら信じられないものでも見るような目だが、信じられないのはこちらも一緒だ。

さすがにうんざりとして、ため息を吐く。

「……おはようございます、ジェラルド様」

「あ、ああうん」

さっきまでの勢いはどこにいったのか。
失せたのならそれでも構わないが、どちらにせよ早く──。

「見てお分かりかと思いますが、私は今支度の途中です。淑女の支度途中の部屋に乱入するなど、紳士のすることでしょうか?」

つまり、意訳すると。

『早く出ていけ』

である。
私の冷えた声と冷めた視線に、ジェラルド様は一歩後ずさった──が、当初の目的を思い出したようだった。

「いや!そんなことよりも、僕には大事な用がある。お前、フローレンスになにか妙なことを言ってないだろうな!」
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