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足りないもの

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「きみに足りないものを教えてあげようか」

そう言うと、目の前の男はにやり、と笑った。






この国のため、命を賭す覚悟で頑張ってきた。足りない部分もあっただろう。力不足、教養が足りないところもあっただろう。だけどそれでも、人前で知識不足を晒し恥をかくことがあっても貪欲に、国のためになることを模索してきた。
高い税率を抑えるためには何ができるか。
そもそも、なぜその率の税が必要なのか。
国にとって、国民にとって、わたしはーー

王太子妃、という立場の人間が何を出来るのか。

何をすればいいのか。
ひとのため、誰かの未来のため。誰かの今日を生きる力を作るため。その為だけにわたしは日々を駆けてきた。

花びらが舞う。
寒い冬は終わり、柔らかな春が花開く。
眩いばかりの日差しが降り注ぐ庭園は、いつもなら穏やかな空気が流れていたことだろう。
しかし、今だけは冷たく、凍るような重たい沈黙が流れた。
やかて、私の目の前に立つ彼がため息を吐いた。
まるで、出来の悪い人間を見る顔で。

「お前は余計なことしかしない。権力にしがみつき、王太子妃の正しき責務を果たしていない」

──責務を果たしていない?

その言葉に目を見開いた。
わたしの反応に気を良くしたのか、王太子はーーわたしの婚約者が笑った。胸がザワザワする。


「……………」


ああ、嫌だ。
これは、昔議会で、わたしが突拍子もないことをーー知識が足りないせいでおかしなことを言った時の空気に似ていた。

「お前は王太子妃の資格がない。俺を癒せない妃は不要。お前は失格だ」

「──」

なにか、言おうとした。
でもそれは、答えにならなかった。

「この婚約は破棄とする。せいぜい、思い上がった自分を恨むんだな」

「っ殿下、お待ちください。わたしは国のため、国民のためを思い毎日を過ごしてきました。至らない部分も多々あったかと思います。ですが……何がそんなにダメだったのでしょうか?どうか教えて頂けませんか」

「それを聞く時点で、お前には素質がなかったんだよ」

花びらがまう。
わたしの、十七年の人生全てを賭した全てが、これで終わる。

──ばかみたいだ。

誰かが言った。
でも、周りには誰もいない。
気がつけば王太子はいなかった。きっと言うことも言ったし、もう話は不要とその場を去ったのだろう。王太子に連れ出された庭園は静かで誰もいない。その中で木の葉が揺れる音だけが聞こえてきた。
場違いに眩しい日差し。

堪えきれなくて目頭が熱くなる。
わたしはどうすれば良かったのだろうか。何を間違えたのだろうか。素質とは何だったのだろうか。

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