60 / 61
βの兎獣人はαの王子に食べられる * 3
しおりを挟む「これからきみは、どうしたい?」
「どうしたい、って」
「俺はね、もうユールンにはいたくない。でも、ここにはきみの大切な友達が、お世話になった人たちがたくさんいるでしょう?だから俺は、むりやりきみをここから離すようなことはできない」
ティナは黙って彼の話を聞いていた。
ロベートは彼女の茶金色の髪先を持ち上げると、口付けを落とした。
彼は口付けが好きだ。
「だけど俺も、きみをひとりじめにしたい。煩わしいものに邪魔されることなく、ただふたりだけの時間を持ちたいんだ」
「ロベート……」
「だからね、ティナ。提案なんだけど──」
***
春を前にした王都は、すこしだけあたたかな雰囲気がある。
寒い冬を過ぎた後は、雪に耐え忍び、花咲く春を待ち遠しく思っていた人々の喧騒が印象的だ。
荷造りをしたティナが友人のもとに挨拶に行くと、彼女は呆れた顔をしていた。
「それで?半年は王都で、半年は別荘地で過ごすことになったの?」
「うん。これから向かうのは避暑地として有名な場所らしいの。夏でも涼しいんだって」
彼は、ティナと相談して一年の半分は王都の邸宅で暮らし、もう半分は自身が所有する別荘地に滞在することを決めた。
彼が持つ別荘地はいくつかあるので、毎年違う場所に行くことになるだろう。
微笑む彼女に、ロレリーナが呆れたような顔をする。
ロレリーナが呆れているのは、ロベートの独占欲の強さと、その強さにまったく気がついた様子のない、警戒心が薄い兎に対してだった。
「一年の半分って……まるで、|冥府の王に好かれた娘(ペルセポネー)みたいね」
「次、王都に戻る時にはもう秋も近くなっているわね。お土産買ってくるわ。なにがいい?」
ティナの言葉に、ロレリーナが苦笑する。
「別に要らないわ……と言いたいことなんだけど、せっかくだもの。その地で有名なご当地ショコラでもお願いしたいわ。それより、ティナ」
「どうしたの?」
ロレリーナは、彼女の前に立つティナをじっくり見つめた。
彼女たちが初めて出会ったのは、今から三年前のこと。
ロレリーナとセルバロスは駆け落ちしてすぐに王都に隠れ住むことにしたが、元々平民出のセルバロスはともかく、貴族令嬢のロレリーナは平民の暮らしに慣れるのにとても苦労した。
食事の支度をしようにも、買い物に行けば世間に疎い彼女は通常値より高い価格で品物を売られても気が付かない。
そういうものだと思っていたのだ。
そのせいで生活も苦しく、元々箱入り娘で何も出来ないロレリーナに、世間は冷たかった。
その中で、唯一声をかけてくれたのがティナだった。
彼女は、ロレリーナの買い物が不当に高いことに気がつくと、すぐに店主に抗議した。
『どうして、小麦粉と塩を買っただけにこんな値段になるの?おかしいわ』
と。
店主は、まさか指摘されるとは思わなかったのだろう。ティナの言葉に、彼女と顔見知りの住人が次々に、『確かにその値段はおかしい』『ひどいじゃないか』と声が上がった。
王都に来たばかりで、知り合いが誰もいないロレリーナと違い、雑貨屋に務めているティナは顔が広い。
あっという間にロレリーナの買い物は正当値に下がった。
店主には『ごめんよ、お嬢さん』と気まずげに謝られた。貴族嫌いの店主は、明らかに箱入り娘であるロレリーナにいい感情を持っていなかったのだ。
そのせいで、ロレリーナは嫌がらせされていたのだった。
きっと、ティナからしたらなんてことのない一言だったのだろう。
だけど、ロレリーナはティナに声をかけてもらったことで、彼女に助けられた。
それからもロレリーナは、度々ティナに色んなことを教えてもらった。
それは、月水金のパン屋の当番は店主の妻となり、気がいいので時々おまけをつけてもらえることだったり、ロレリーナが行っている肉屋は質が悪く、相場も高いので王都に住む人はあまり使わないことだったり。
新参者のロレリーナは、彼女の言葉にとても助けられてきたのだ。
ロレリーナは過去の思い出を思い出していたが、目の前の彼女が不思議そうな顔をしていたので、記憶を辿ることをやめた。
「結婚おめでとう、ティナ。幸せになるのよ」
ロレリーナが彼女を抱きしめると、ティナもまた抱きしめ返す。
「ありがとう。ロレリーナの結婚式が楽しみだわ」
「……それなんだけどね?」
ロレリーナがすこし言いにくそうに、だけど面映ゆそうにしながら顔をあげた。
「どうかしたの?」
「実は──」
22
お気に入りに追加
247
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非!
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる