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約束の誓い 2

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「だからね、あなたには見守っていて欲しい。あと少しだから……。結婚式、昼食会、披露宴。全て私がこなせた時は、頑張ったねって褒めて欲しい」
 
 彼女は照れたように笑う。
 それを見て、ロベートは未だ悩んだような顔をしていたが、やがてため息を吐いた。
 もとより、ティナの希望を彼が切り捨てるなど、できるはずがなかったのだ。
 彼は、最愛の兎にだけは甘いのだから。
 
「……わかった。でも、無理はしないで。俺との約束、守れる?」
 
「ええ」
 
 無理をして、倒れるまで追い込むな、ということだろう。
 ティナは笑って答えた。
 彼が心配してくれているのはわかったし、彼の気持ちを思えば、根を詰めるティナを止めないでいるのは難しいことだろう。
 それでも彼は、ティナの意志を優先させてくれた。
 彼女が頑張りたいから。
 彼のために、その隣に並んでも見劣りしないように、はりぼてで構わないから、励もう。
 ティナはそう思った。
 
 ロベートとの触れ合いは、ほんの少し触れる程度の口付けと、エスコートの時の手の接触くらいしかなかった。
 その度にティナはものすごくどきどきしたし、顔が真っ赤になってしまう。
 彼にエスコートされて歩いてる時などは、あまりにティナが彼を意識しすぎてギクシャクしてしまうので、彼に苦笑されてしまったほどだ。
 
 もう、穴があったら入りたい。
 ティナは、結婚式の日を指折り数えて待っていた。
 
 季節はあっという間に巡り、結婚式は冬の終わりの日に正式に決まった。
 
 
 結婚式を目前にして、ティナは王妃から長く王家に伝わるというブレスレットを譲られた。
 そんな高価なものはいただけないとティナが恐縮すると、王妃の使い走りにされたロベートが疲れたように首の凝りをほぐした。
 
「サムシングフォーのひとつとして、ぜひもらってほしいとのことだよ。母の好意だ。受け取ってあげて」
 
 王妃は、父王同様に長年女を近寄らせなかったロベートを心配し、気にかけていた。
 その息子が突然結婚することとなったのだ。
 王から聞く限りだと、ロベートとティナの仲もいい。彼が幸せな結婚をすることに、母は喜んだようだった。
 ロベートが彼女に渡したのは、七色の宝石が彩るアクロスティックブレスレット。
 端からダイヤモンド、エメラルド、アメジスト、ルビー、エメラルド、サファイア、トルマリンの宝石が嵌め込まれている。

 石の頭文字を繋げると、DEARESTさいあいのあなたへ

 一昔前に、遊び心のある贈り物が流行り、当時の王が王妃に贈ったものだという。
 ビロード生地に包まれた小箱の中に収まるブレスレットを見て、彼は目を細める。
 
「これは結婚式当日につけようか」
 
「私に似合うかな……」
 
「似合うよ。とても綺麗だと思う」
 
 彼がティナの額に口付けを落とす。
 
 ティナのウェディングドレスは青をあしらったクリーム色のドレスと決まった。
 サムシングブルーのひとつとして取り入れようとロベートと相談して決めたのだ。
 
 綺麗、という言葉より可愛い、という言葉の方が似合うティナには、濃い青より空色の方が合っていた。フリルとレースを多分に含んだドレスは、ロベートの好みでもあったのだろう。
 新婦のウェディングだというのに、彼はティナ以上にそのデザインにこだわった。
 ティナはおおまかなベースデザインと色合いを決めただけで細かなやり取りは彼が仕立て屋と行っていた。
 
 仮縫いの時にウェディングドレスをまとった彼女は、その可愛らしさにうっとりした。
 十八歳にはやはり甘すぎるデザインだ。
 でも、ティナはこのドレスをすごく気に入っていた。
 花婿は、結婚式まで花嫁のウェディングドレスを目にしてはいけないという決まりがあるので、仮縫いとドレス合わせは、ロレリーナが彼女に付き合った。
 
「とても綺麗よ、ティナ。まさかあなたに先を越されるとは思わなかったわ」
 
 微笑むロレリーナに、ティナもまた笑顔をうかべた。
 
「ロレリーナは秋でしょう?とてもたのしみ」
 
「そうね。子供も同じ時期に恵まれるかもしれないわね?」
 
 子供、その単語にティナの顔から首筋まで赤く染まる。相変わらず初心な反応を示す彼女に、ロレリーナはにやにやと良からぬ笑みを浮かべた。
 そんな彼女に、ティナは少し考え込むような素振りを見せた。
 
 (……初夜、彼と私は肌を重ねるのよね)
 
 ここ数ヶ月、どころか半年以上、ティナは彼とキス以上のことをしていない。僅かな経験値はあっという間にぜろに戻り、それどころかマイナス値に振り切っている。
 ティナは自分にあまり自信が無い。
 胸だって同年代に比べたらあまり目立たないし、肉感的な体つきをしているとは言い難い。
 もし……もし。
 
 (ロベートがその気にならなかったらどうしよう……)
 
 あれだけ毎日甘く囁かれているのだから、そんなはずはないと、ティナの懸念を耳にしたら間違いなくロレリーナは口にしただろう。
 だけど彼女はその不安をただ胸にしまったままで、口にすることは無かった。
 代わりに。
 
「……ねえ、ロレリーナ。聞きたいことがあるのだけど……」
 
 彼女は、自分よりもずっと先輩の、恋愛マスターであるロレリーナに教えを乞うた。
 
 
 
 
 
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