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花嫁になる前に
しおりを挟む社交については、ロレリーナが邸宅まで足を運び、教えてくれた。
ティナは家庭教師がロレリーナであることに喜んだ。
「淑女の礼は……そう。いや、違うわ!俯かない。顎は引く!」
ロレリーナのレッスンはスパルタだった。
ロベートのぬるま湯のような優しい授業ばかりだったティナはそうそうに彼女の叱責を買い、あちこち指摘される。
淑女の礼ひとつ取っても、ぎこちなさは拭いようがなく、まるで古い人形みたいな動きになる。
度々ロレリーナに「そこで止まる!」と指示を受け、苦しい体勢のままポーズを取る彼女の手足を、ロレリーナがひとつずつ直していく。
朝から始めて、昼前にしてようやく、ティナはロレリーナに注意されることなく淑女の礼の形をとることができるようになった。
「うん、その形よ。誰が見たって文句のつけようがないわ。ティナ、いいこと?ちゃんとこの形を覚えるのよ。特にあなたは腰を突き出しすぎる、腰が低い、形を取ることに意識が取られて、表情が固くなる!この三点さえ注意して練習を繰り返せば、すぐに様になるわ」
「ありがとう……」
その時には、ティナは普段使わない筋肉を駆使しためか、肩で息をする始末だった。
(も、もっと優雅なのかと思ったけど……すごいたいへん)
貴族令嬢はこれを完璧な形になるまで練習し、日常的に行っているのだ。
太ももの筋肉が震えて、小鹿のような立ち方をする彼女を見て、ロレリーナが困ったものを見るような、苦笑をこぼした。
「次は座学にしましょうか。ティナ、あなたには覚えることがたっ……くさんあるわよ!」
彼女の言うとおり、ティナが学ぶべきことは多数あった。まずは、結婚式に招待されるであろう有力貴族のリスト。
フルネームから、彼ら各個人の政治的背景はもちろんのこと。出来れば交友関係も把握させたいとロレリーナは思っていた。
彼女は、ティナの教育係を引き受けるにあたり、ロベートから最低限の教養で構わないと聞いていたが、彼女はできる限り彼女に知識をつけさせたいと思っていた。
間違ってもティナが初の社交界で、知識不足によってばかにされることがないよう、ロレリーナはその対策を細かく考えていたのだった。
「あら……?」
結構に招待されるであろう有力貴族のリストを確認していると、ふと、見慣れない文字が目に入った。
ディズアード公爵家の次女、エレネディア・ディズアード。
社交界でも第二王子に執心していると有名な令嬢だ。彼女のことだからきっと、間違いなく結婚式に参加するだろうし、ティナにとっての鬼門になるだろうと彼女は踏んでいたのだが──
(エレネディア・ローラリー?)
彼女の姓が変わっていた。
養子に出された、という話は耳にしていない。
であれば………
(結婚?あのわがまま姫が?)
ロベートは、彼女が彼の身分しか求めていない女だと切り捨てていたようだが、社交界で少し見ただけのロレリーナにすらわかる。
彼女はきっと、真剣に恋をしていた。
ロベートの見目麗しさに心を奪われたのか、それとも別の理由があるのかは分からないが、彼女の彼を見る目は恋をする女の目、そのものだ。
肩書きだけであそこまで熱っぽい目をする女はいない。
もっとも、彼女だけでなく多くの令嬢をはじめとした夫人が、そのような目をしていたのだが。
(言いよる女性をのきなみばっさり切り捨てるって言うからてっきり、女嫌いかと思ってたけど……)
ロレリーナは、未だに彼がロベートだと信じられない。彼女の知っている第二王子と、差がありすぎるのだ。
ティナの前で、砂糖がどろどろに溶けた甘ったるい表情と、見ている方があてられてしまいそうなほどの優しい声は、あの氷の王子のものだと思えないのだ。
(二重人格?……なんてね)
ロベートは意図的にティナの前で本性……かはわからないが、性格を使い分けているのだろう。器用なことだと思う。
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