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花嫁の望みはなんでも叶えたい
しおりを挟むロベートは、眠りに落ちた恋人を前に苦笑した。
彼女に煽られたとはいえ、やりすぎた。
すやすや眠る彼女のまなじりはまだ涙で濡れているし、その顔は疲労が色濃い。
彼が涙を拭っても、目を覚ます気配はない。
二度も彼女を求めたのは初めてだ。
いつも一度交わっただけで、彼女は眠りに落ちてしまうというのに。
彼はため息を吐くと、彼女の体を抱き上げて、寝室へと運んだ。
ソファの惨状は、メイドに片付けさせる。
彼女が知ったら顔を真っ赤にして恥ずかしがるだろうが、王子の妻になるということは、ひとに世話をされるということだ。
これも必要なことだと慣れてもらうほかない。
寝室のベッドに彼女を寝かせると、彼女のくちびるが嬉しそうに笑みを描く。
一体、どんな夢を見ているのか。
彼もちいさく笑みを浮かべて、幸せな夢を見る姫君のくちびるに口付けを落とした。
彼──彼女の恋人が、突然運命の番に魅力を感じなくなったのは、彼の小細工によるものだ。
ロベートにとって、あの男はティナを傷つけ、弄んだ許さざる獣人だ。
完全に彼の八つ当たりだが、運命の番を言い訳にとうぜんのように恋人を傷つけることを良しとする人間性は、正されるべきだ。
彼は、学ぶ機会を与えたのだからむしろ感謝して欲しいくらいだった。
ロベートは、彼がよく顔を出す酒場を調べあげていた。
そして先日、部下に命じて男のジョッキに薬を混ぜるよう指示を出したのだ。
薬は、フェロモン相殺剤。
一度服用するだけではすぐに効果は失われてしまうが、ロベートは男の身内を金で雇い、彼の食事に定期的に薬を混ぜるように指示を出している。
フェロモン相殺剤を服用すれば、αはΩの、Ωはαのフェロモンを嗅ぎ取ることができなくなる。
フェロモンを感じ取ることが出来ないので、それにあてられて性的に高まることもない。
強い誘惑フェロモンによって魅了されているなら、フェロモンを感知できなくなれば必然、相手に魅力を感じなくなるというもの。
ふたりの食事に薬を混ぜるよう手配してまだ数日のことだが、既に男の方には効果が出ているのだろう。
彼らは今、フェロモンという特殊効果がない状態だ。
運命だというなら、フェロモンがあろうがなかろうが、互いに心を通わせるはずだし、フェロモンを感じ取れなくなっただけで互いの魅力が失われたなら、それまでの関係だったということだ。
フェロモンを感じ取れなくなってもなお、互いを求めるというのなら、彼らは真に運命なのだろう。
だが、結果はこのとおり。
男は運命の番を気の迷いだったと判断したし、女はそんな男に見切りをつけて、そうそうに新しい番を探している。
女の方がしたたかで、αに無理矢理噛まれたΩ、という仮面を被ることにしたらしい。
そのせいで一悶着起きていることを彼は耳にしていた。
だが──
(フェロモンによって誘惑されずに済むようになったのだから。これでようやく、まともな人間らしい恋ができるようになったんだ)
彼らがこれからどういう人生を送るか、彼は知る由もないし知りたくもないが、真に愛する、感情ひとつの恋ができるようになったのだから、やはり彼は褒められてしかるべきだと彼は思った。
彼がそうした考えをすることは昔から変わらなかった。ティナと出会ったことで彼は『女性が理想とする紳士像』を探求し、模索し、彼なりにその振る舞いを身につけることに成功したが、それ以外は何ら変わっていなかった。
彼の根本の性格は、独善的で、皮肉げ。
世間を斜めに見据えるところは少年期と変わらない。
むしろ、昔より今の方が悪知恵が働く分たちが悪いかもしれない。
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