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相反する気持ち *

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 泣き腫らした彼女の目は真っ赤になっていた。
 それを見て、ロベートが小さく笑う。
 
「ほんとうに兎さんみたいだね」
 
「……兎の獣人だもの」
 
 そう答えた彼女は、自分でもわかるくらい甘えた声を出していた。
 
 彼に腰を抱かれ、向かった先は彼の邸宅だ。
 玄関には、彼と同じく黒のフロックコートに、フードを目深に被った男性が頭を下げてきた。
 
「今日はもう返せそうにないけど、良い?」
 
 ロベートが尋ねてきて、彼女もまた顔を赤くして頷いた。
 ダイニングルームに連れていかれると、彼はソファに彼女を座らせた。当然のように彼女を自身の隣だ。未だ、腰は抱かれたまま。
 
「それで……どこまで思い出したの?」
 
 気のせいだろうか。
 彼の声は、とても甘ったるく聞こえた。
 それも、声だけで彼女の耳が熱を持ってしまいそうなほど。
 
「たぶん、全部だと思う。あなたが私を婚約者って……」
 
「言ったね。きみはあの時、その意味を知らなかった」
 
 彼のくちびるが、彼女のこめかみに触れた。
 びくり、と揺れ兎の耳が揺れるが、彼女は逃げようとしなかった。
 
「ほかには?」
 
 彼は、彼女の口から過去の出来事を聞き出そうとしているように見えた。
 互いの記憶に齟齬がないか確認しようとしているのか、それともただ彼女と思い出を再確認したいだけなのか。
 ティナは、彼の甘ったるい口調からなんとなく、後者なのではないかと思った。

「あの日から……会いに行けなくなってごめんなさい。私、記憶を失ってしまっていたの」

 ティナが記憶を失った経緯を話し、目が覚めてからは彼女自身発熱と怪我がひどく起き上がれなかったことを伝えると、彼の瞳はだんだんと剣呑さを帯びていった。

「……あの時、村に火を放ってやればよかった」

「ロベート?」

「ううん、なんでもないよ。きみが無事でよかった」

 彼の指先が、するりと彼女の腰のラインをなぞった。
 
「ティナの尻尾はまるくてかわいいね」
 
「ひゃぁっ!?」
 
 彼の手がきゅ、と彼女のまるい尾を握る。
 それは決して強い力ではなかったが、突然のことに彼女の肩は跳ねた。
 元々、しっぽの付け根は敏感なところだ。彼女自身、他人に触れられたのは初めてだった。
 初めて知る感覚に、ティナは顔から首筋まで真っ赤に染めあげた。羞恥のあまり俯いたせいで、さらさらと彼女の茶金色の髪が胸元にこぼれおちた。
 彼女の白いうなじがあらわになると、彼は目を細める。
 それは、獲物を前にした獣の目だった。
 がぶ、と彼は彼女の白い肌に噛み付いた。
 
「きゃぁ!?」
 
「ごめん、美味しそうだったから。つい」
 
「つい、じゃないわ……」
 
 ティナは痛みに目を潤ませる。
 そんな彼女を宥めるように、彼は噛み付いたところを優しく舐めた。まるで獣が傷を舐めて治そうとしているかのようだ。
 牙がくっきり刺さった白い肌は、彼のものだと知らしめるようで、彼は眉を寄せて熱い息を吐いた。
 そのままちゅ、ちゅ、とうなじから首筋までくちびるで触れて、時々強く吸い上げる。
 そうすれば、赤い鬱血痕が白肌を染めた。
 
「ひゃ、ぁ……」
 
 吸い上げる度に短く喘ぐ兎の恋人が可愛くて、愛おしくて。彼は鋭さすら感じる瞳のまま、彼女の肌を舐め上げた。
 きっといま、彼女が彼を見たら怖がることだろう。それほど彼の瞳は欲で濡れ、容赦のない熱を孕んでいた。
 この雌を孕ませたい。
 彼の頭にあるのは、ただそれだけだ。
 彼の手が、そっと彼女の腹に触れる。
 
「……ごめん、ティナ」
 
 彼の声はかすれていた。
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